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#3 勿忘
「一柳 さん」
廊下で呼び止められて振り返る。
黒の短髪、武道を修めてきた者らしい細身に見えるが筋肉質な体つき、勤勉さが感じられるハキハキとした話し方。
いかにも熱血真面目な警察官、という風体の青年だった。
「はい」
「三条署の百田 と申します。呼び止めてしまってすみません」
百田と名乗ったその青年は、上司から私に渡すよう頼まれたという書類の入った封筒を差し出した。確かに今、三条署管轄の事件の鑑定を受けているのでその関係だろう。
「ああ、ありがとう」
封筒を受け取る。
百田という青年は、用事を終えたはずなのだが立ち去る様子がない。
「……他に何か?」
私より少し背の高い彼を見上げて訊ねると、顔を赤らめて慌てた様子を見せた。
「業務とは無関係のことをお聞きします。すみませんッ。一柳さんは、自分のことを覚えていらっしゃいますでしょうか……!」
先ほど感じたように、この青年はいかにも警察官という風体なので、同じような背格好の警察官はゴロゴロいる。
正直言って覚えはない――と思ったのだが。
彼の左目尻の下にそっとある、泣きぼくろに気がついた。
ふと脳裏に甦るイメージ。
襲われそうになった私の前に立ちはだかり、守ってくれた若い警官。
殴られた彼の頬を手当てした時に見た――左の泣きぼくろ。
「ああ……あの時の」
そう言って、私は彼の左頬に手を伸ばした。
「……跡が残らなくてよかった」
「に、二年前のことですからっ……! それに、自分は男ですのでッ。怪我のひとつやふたつ……!」
伸ばした私の手をそっとどかした彼の顔は更に赤くなっていた。
「ああ……悪い。不躾だったか」
「いえ! あの、そうではなく……!」
彼は一歩後ずさると、深々とお辞儀をした。
「一柳さんに覚えていただいていて光栄です! ありがとうございますッ」
失礼します! と言いかけた彼の言葉を、「百田」と名前を呼ぶことで遮った。
「は、はいっ!?」
「おまえの名刺をくれないか」
彼の差し出した名刺には、『百田 勇人』と記されていた。
「……下の名は、『ゆうと』と読むのか? それとも『はやと』か?」
「『はやと』と読みますッ」
私は頷き、名刺を白衣の内ポケットにしまう。
「わかった。覚えておくよ、『ももたはやと』」
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百田勇人 ×一柳玲
【熱血若手刑事攻め】×【クールなニャンコ年上受け】
若手刑事×科捜研の研究員
年下攻め。
舞台のイメージは、ドラマ科捜研の女。
この後、一部始終を見ていた科捜研の同僚たちに、一柳はいろいろ言われていたらいい。
どちらかを関西弁キャラにしてもいいなぁと考えています。
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