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紫の華は咲けども 君は居ず 散って儚き思い出や 「・・ン・・・・」 「痛むか?」 昨夜は寝ずに彼を看ていた。 痛みからか呻る声に混ざった母を呼ぶ声。 大学で医学と共に英語も学んでおり 彼の言葉は理解が出来た。 「・・・!!」 目覚めた彼がいきなり身体を起こそうとするのを 手で制する。 「駄目だ!頭を強く打ってるかもしれない!  俺はお前に危害を与えない。約束する。  だから、今は安静にしていろ!」 彼の身体から力が抜けた。 「ジョウで云いか?」 彼の名前を呼べば 「キミはオレのコトバがわかるのか?」 胸の認識票を手で触りながら訊いてきた。 「大学で学んだからね・・・ジョウは日系兵士かい?」 「ああ・・・祖父が日本人だ・・・」 「そうか・・・」 「仲間は・・・」 「わからない。ただ・・・戦闘機は墜落の衝撃で・・・  多分、ジョウ・・・君だけだろう。生き残ったのは・・」 「・・・・」 彼の海のように青い目から泪が流れる。 俺は彼を少しでも安心させたくて 「此処は安全だから・・・今はゆっくり身体を休めろ」 そう云って 彼の柔らかな 刈るの待つばかりに実った稲の色した髪を撫でる。 その俺の手に少し落ち着いたのか 青い目をゆっくりと閉じた。 それから数日 彼は布団の中で寝たっきりだったが 頭や身体の傷も乾き 痛みも和らいだのか 床から起き上がれるようになった。 医者にはなれなかったが 大学で学んだ医学が 誰かの為に役立ったと思うと 俺は嬉しかった。 毎日来ていた弟にも 暫くは家に来るなと云っておいた。 きっと今頃、不貞腐れているだろう。 けれど・・ もし、誰かに彼の存在が知られては不味い。 憲兵に連れて行かれれば 彼は間違いなく殺されてしまうだろう。 縁側に座り 描きかけの藤の木を写生しながら ぼんやりとそんなことを考えていた。 「セイイチ貸して!」 ジョウが写生帳を俺の手から取り上げる。 「コレ、この木か?」 庭の藤の木を指差して訊く。 「ああ・・・そうだよ」 「なんと云う名の木だ?」 「藤だよ・・・」 「フ・・ジ・・・?」 片言だが日本語を少し話せるようになったショウ。 「そう、藤だよ」 「セイイチは画家なのかい?」 「いや、違うよ。趣味で描いてるだけ」 そう云えば え?こんなに上手いのに?と不思議そうに 吸い込まれそうな大きな青い目で覗き込まれた 俺の胸がその瞳にドキリと跳ねる。 — なんだ、これは・・・。 「セイイチ、じゃぁ・・・キミは何になりたかったの?」 俺は高鳴る胸の鼓動を気付かれないようにと 平然を装いながら答えた。 「医者になりたくて大学に行ったが胸を病んでね。  今じゃ、家族のお荷物だよ」 俺の言葉にジョウの綺麗な青い目が 一瞬、澱んだ。 「セイイチ・・・悲しいことを云わないで!  オレにはセイイチがいないと困る!  セイイチはオレの恩人だ!」 彼の淀んだ青い目から泪が溢れた。 「セイイチはお荷物なんかじゃない!  だから・・・そんな悲しいことを云うな・・・」 そう云って 写生帳の中の藤の木を滲ませた。 彼を助けてから10日程たった夜 俺は久しぶりに酷い咳と共に血を吐いた。 「セイイチ大丈夫か?」 背中を摩りながらジョウが心配そうに訊いてきた。 — 彼を不安にさせてしまったか? 俺は咳が止むのを待ち 血で汚れた唇と手を 着物の袂に入れていた手巾で拭うと 隣に敷いた布団で眠る彼の方を向き 「大丈夫だから・・・でも、もし・・・俺に何かあったとしても  お前は・・・ジョウは此処に隠れていたらいい。  お前の国の・・・味方が助けに来るまで隠れていればいい。  この戦もそう長引かないだろう・・・日本はきっと・・・・・  麦に粟、味噌くらいしか貯えはないけど  なんとか生き延びれるはずだ・・・」 そこまで云うとジョウが俺を抱きしめた。 「セイイチが死ぬってこと?  セイイチがこの世からいなくなってしまうってこと?」 そんなの嫌だ・・・と泣くジョウ。 俺は宥めるように 「前にも云っただろ?俺は家族のお荷物だ。    病の性で戦にも行けず、家族は村の笑いものにされて・・・  俺なんかいなくなった方がいいんだよ・・・」 けれど、ジョウを助けられて俺は幸せだったよと云えば 「セイイチがいなくなるなんて・・・  オレには考えられない・・・・」 セイイチが大切だ セイイチを愛してる ずっとオレの傍にいて そう云って口付けをしてきた。 「やめろ!うつるぞ!!」 セイイチが云う。 でもオレは笑って 「なら、一緒に死ねる」 そう返せば馬鹿と顔を背けられた。 不安からか 小刻みに震えるセイイチのカラダをギュッと抱きしめ 耳元であなたを愛してもいいか?と訊けば 好きにしろ!と返ってきた。 オレはその言葉を合図に もう一度 彼の唇にキスをする。 少し開いた唇から舌を忍び込ませば 血の味がした。 逃げる舌を絡めとれば見開く瞳。 その瞳もやがてうるりと潤んで閉じられた。 絡めた舌を吸い合い互いの熱を感じ合う。 深く重ねた唇で飲み込めない唾液が 彼の唇から流れる。 それを離した唇で拭う。 よせ!と赤らめた頬で云う彼を たまらなく愛しいと想った。 オレは彼の着物に手を伸ばし 胸を肌蹴させ そこに唇をおとす。 「・・あっ・・・・」 彼の唇から声が洩れた。 その声がオレのカラダに熱を灯す。 胸の飾りまで唇を這わせれば 彼の潤んだ瞳がオレを見つめた。 その視線を確認してからオレは飾りを吸う。 吐息と共に跳ねるカラダ。 暫く舌で突起を転がしていると 彼の華奢な肩が震え 喉を仰け反らせ 背が弓なりになった。 オレは一度飾りを きつく吸ってから唇から離すと 今度は彼の昂ったモノに指を絡め ゆっくりと上下させた。 彼の少し荒くなった息が 腕を首に絡められ 抱きしめられたオレの髪を擽る。 それだけで幸せな気分になる。 吐息を吐く彼の耳元に 愛してる だから、ずっと傍にいてと 何度も何度も囁く。 彼の昂ったソコから オレの手中に放たれた温かなモノを 彼の秘部に塗りこめば 唇からは先ほどよりも掠れた声が洩れた。 彼の熱を帯び潤んだ目と 彼とは違う色をしたオレの目が合う。 オレは訊く 「Ilove you は日本語でなんて云うの?」 彼は答える 「愛してる・・・」 「ア・・イシ・・テル?」 「そう・・・愛してるだよ・・・」 「アイシテル・・・」 「うん、愛してる・・・」 「セイイチ、アイシテル」 「オレも・・・ジョウを愛してる」 「アイシテル、セイイチ・・・アイシテル・・・・・」 オレとセイイチは愛のコトバを互いに囁きながら一つになった。

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