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第16話
「……ま、理音には今更って感じなのか」
「え?」
昂平の声のトーンが変わって、俺は思わず笑うのをやめた。ゆっくり顔を上げて、昂平の目を見る。
「18禁的なこととか、もう慣れてるんだろ?確かにお前からしたら笑えるな」
「な、何言って……」
何言ってんだ?昂平。
初めて見る、冷めたような目。
軽蔑してる目。
軽蔑?昂平が?
――俺を?
「お前ヤリチンとか自慢できることじゃないからな。病気とかうつされたら笑えないぞ」
ああそっか、俺ってヤリチン設定なんだった。口ではそう言ってるけど、実際は女と遊んでるヒマなんかないってこと、昂平なら分かってくれてるって、勝手に思ってた。
佐倉先輩や進藤に、モテるとかヤッてるとかアピールしてんのは全部嘘だってこと、昂平だけは見抜いてくれてるんじゃないかって思ってた。俺がまだ童貞だってことも。
「理音?」
ンなワケねぇよな、言ってねぇもん。
なんだか全身の血液が、さあっと足元のほうへ落ちていく感覚がしていた。
きもちわるい。
「おい、どうした?」
「なんか、きもちわる……」
「理音?いきなり顔色悪くなってるぞ?」
昂平が俺のことを、全部分かってくれてるはずなんかない。
だって全部わかってくれてたら、
「理音」
昂平が好きな俺のことなんて、気持ち悪くて……一緒にいてくれるわけ、ねぇもんな。
「理音!」
眠いんだか気持ち悪いんだか、もうわかんねぇ。ただ、頭が痛い。
ああ、俺って馬鹿だな。
一番誤解されたくない人に、誤解されるようなことをわざと言いふらして、ほんとに誤解されてるって分かった途端傷付くってか、後悔するなんて、ホントにばか。
「理音!!」
だって昂平に嫌われたくねぇんだもん。
好きだってばれたくねぇんだもん。
仕方ねぇじゃん。
そう、仕方ねぇんだよ……。
どんどん意識が薄れて行って、気を失う前に焦ってる昂平の顔がうっすら見えた。
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