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第26話
『……?』
『黙ったってことはビンゴ?』
認めたというより、俺は言葉の意味を考えていた。
『ゲイ』という言葉は、幼馴染みの男が好きという特殊な嗜好以外、勉強とバレーだけをしてきた健全な青少年である俺には聞き慣れない言葉だったのだ。
しかし、本もよく読む俺は偶々その言葉の意味を知っていたので、ゆっくりと思考した。
『ゲイ』とは……確か、同性愛者のことだ。
え。俺ってホモだったのか?
いやそうなんだけど、理音以外の男なんて興味ないし、むしろ願い下げだ。
というかこいつは一体俺の何を見てこんなことを言ってきたんだ?失礼じゃないか。
それか俺、自分で気付いてないだけでホモオーラを振りまいてるのか?なんだそのオーラ、きもい。というかコイツは一体何者なんだ?
『おい、固まるなよ犬塚』
言い返す言葉も見当たらず、俺はとりあえずこれ以上ないという凶悪な顔で宇佐木を睨んだ。
『うっわ恐!ちょ、別にケンカ売ってねぇからその顔やめて!まじで恐いから!』
『理音になにか用か。内容によっては容赦しない』
『は?りおんって誰?』
『俺を脅しに来たってことは、お前の目的は理音なんだろう』
全く、次から次へと何でこうもーー
『ちょ、何か勘違いしてない?何度も言うけど俺、別にケンカ売ってないから!あ、俺は宇佐木葵ね。知ってるか、後ろの席だし』
『俺は犬塚昂平だ』
『そこは律儀に返してくれるんだ…うん、知ってる。お前が犬塚昂平だって分かって話しかけたから。てか違うって、その、俺も同じだからおまえと話してみたいなって思ったの!』
『同じ?』
『だから、ゲイってことだよ』
そこでハッとしてキョロキョロ周りを見渡したが、教室にはもう俺達二人しか残っていなかった。ほっと胸をなでおろす。
いくら宇佐木が不良でも、人が残ってる教室でこんな話をするほど馬鹿じゃないらしかった。
もう部活は遅刻決定だが仕方ない。俺が何よりも優先してるのは、理音と理音に関することだから。
『そうか、それでお前も俺と同じで理音が好きなんだな。単刀直入に言う、理音は渡さん』
別に俺のものでもないけど。
『いやいやそれが勘違いだから。りおんて誰だよ?』
『3組の猫田理音。俺の可愛い幼馴染だ』
『あーそう、犬塚くんはそのりおんくんが好きなのね、安心して、俺ガキには興味ないから』
『ガキだと?』
凶悪な表情のまま、ピクッとこめかみが動いた。自分で言うのもなんだが、この時の俺はめちゃくちゃ恐い顔だったと思うんだが。
――けど、今度は宇佐木はビビらなかった。
『高校生はガキだろ。俺も、おまえも』
確かに今の俺の態度はガキっぽいかもしれない。でも、不良然とした見た目のこいつが俺と友達になりたいなんて非常にうさんくさいし、いきなり人のことホモ呼ばわりするし、どう考えても簡単には信用できなかった。
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