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第29話

*  次の英語の授業で使う辞書を忘れてしまったから、昂平に借りようと思って2組に来た。そしたら俺は、クラスメイトととても楽しそうに話す昂平の姿を見てしまった。 ショックだった。 あんなに楽しそうに話す昂平は、今まで見たことがなかったから。俺と話してる時以外。  昂平の話し相手は金髪でピアスをしていて一見不良っぽかったけど、不良が適当にやっている髪染めやピアスとは明らかに違っていた。全てが計算されていて、相当なオシャレ上級者に間違いない、とモデルである俺は思った。一緒に服とか買いに行きたい感じ。  なんでそんなやつが、オシャレとはまるで無縁な昂平(ダサイというわけじゃないが、デニムにパーカーみたいな適当な感じ)と一緒にいるのか、ぶっちゃけ違和感しかない。  ていうかあいつは一体誰だ。 どうして昂平とそんなに仲良さげに話してるんだ。どう見てもただのクラスメイトじゃない。 昂平、なんで… 「あ、RIONだ!」 「どうしたの?犬塚くんに用事?」  俺に気付いた女子が声をかけてくれた。俺と昂平が幼馴染で仲がいいことは周知の事実だ。 昂平は名前を呼ばれると俺のほうを振り向いた。  一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には俺にしかわからないだろうけど、嬉しそうな顔をした。そしてその時、金髪の男が昂平に何かを囁いた。 ーー何だ? 昂平は振り向いてよくわからない反応をすると、俺の方まで来てくれた。 「理音、どうした?」 「誰だよ」 「え?」 「あいつ、誰?」  辞書を借りに来たことも忘れて、俺は視線を金髪に向けたままでそう言った。すると昂平は「あー」と言いながらぼりぼりと頭をかき、ちらりとアイツの方を見た。 そして。 「お前が知る必要ない奴だよ」 と、言った。

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