45 / 141
第45話
昂平も宇佐木のことが好きなのか?
俺よりもそいつの方が気になるのか?
だから俺よりも、そいつの方を見るの?
無意識というわけじゃなかった。でも、意識してたわけでもない。
俺は保健室から出て行こうとする宇佐木の腕をひっ掴むと無理やり自分の方に向かせ、そのままドアへ叩き付けるよう肩を押し付けた。
「痛ッ!」
「理音!?なにしてんだ、やめろ!!」
俺は、宇佐木を殴ろうとしていた。
本気のケンカなんて生まれて一度もしたことない。
生意気な俺はいつもいじめられていて、そのたびに昂平に助けられていた。
そんな俺が、初めて拳を握りしめて、今にも人を殴ろうと振り上げているのだ。
「……ッ」
でも、殴れなかった。殴れるはずなかった。
コイツが俺のモノじゃない昂平を好きだからなんて、殴れる理由にはならない。ガタガタと拳を震わせながら、俺の瞳からは大量の涙が溢れだした。
「……ぅうっ……」
「理音、くん……」
宇佐木の腕を離した。振り上げた拳も下ろした。けど、俺は動けないままだ。
木偶の坊みたいに突っ立って、ぼろぼろと泣いている。すげーカッコ悪い。
「理音、なんで宇佐木を殴ろうとしたんだ」
突然、保健室に、乾いた音が鳴った。
それは、俺の前に居た宇佐木が昂平の前に移動して、昂平の顔を打った音だった。
「!?」
「この、馬鹿犬!好きな子がこんななるまでほっとくんじゃねぇよ!それでも男か!?臆病も大概にしろよな、この馬鹿野郎!!」
……え?
好きな子って、何言ってんだ、宇佐木のヤツ。
もしかして、勘違いしてんのか?昂平が俺のことを好きだって。
はぁ、なんかもう笑える。
「お、俺は」
何も言わなくていいよ、昂平。ていうか、何を言うつもりなんだよ、お前は。
俺のことなんか好きじゃねぇよって否定すんのか?それが事実だとしても、昂平の口からは聞きたくない。
「んぁ?…なんだこの状況。なんかの修羅場?」
場の緊張を一気にぶち壊すようにして入ってきたのは、ここの主である保健医の小野先生だった。
ともだちにシェアしよう!