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第51話
案の定、二人はケンカ。というか理音くんがめちゃくちゃ怒っている。当然だ。
そしてその理由が全く分かってない馬鹿わんこ。
この二人は長い間一緒に居すぎたせいで、お互いの気持ちが一番見えてないらしい。誰が見たって両想いなのに、二人だけがそのことに気付いていないんだ。
…………なんか、あほらし。
ほっといてもすぐにくっつくなこりゃ、と思った。
最近の犬塚は欲求不満を部活で発散しきれないようで、ヤリたいオーラが凄いし。
うっかり襲ってしまってそのまま両想発覚、みたいなことがありそうすぎて困る。
でも、この二人は似たもの同士っていうか、かなりお互いに対する気持ちを抑えこんでるみたいだから、少し焚きつけてやることにした。
犬塚は初めての友達だし、RIONのことはファンだしね。
『犬塚ってさ、カッコイイよな』
なにげなく、さりげなく、俺は理音くんにそう言った。早く自分のモノにしないと奪っちゃうよー、みたいなニュアンスね。そっからはもう知らない。
とっととわんこと両想いになって、早く俺とも友達になってほしいなー。
そのくらいにしか思ってなかった。
――今日までは。
ダァン!!
なんで俺、理音くんに保健室のドアに身体叩きつけられて、今にも殴られそうになってんの?びっくりしながらも、俺は理音君の顔を見つめた。
なんて顔、してんだ。
色素の薄い、本物の猫みたいにおっきいアーモンドアイが、涙をたっぷり湛えて揺れている。怒りのせいなのか、真っ赤な顔をして、下唇を噛んで、今にも泣き叫びそうな表情。
『おまえなんかに昂平は渡さない!!
渡すもんか!!
嫌いだ、お前なんか!!
昂平の前からいなくなれ!!!』
そんな風に思ってるのは、すぐに伝わってきた。何もしてないのに、一方的に敵視されるのはちょっと傷付くんだけど。
てか、まだ俺のことをろくに紹介してなかったのかよ、あの馬鹿わんこは。
……ああもう、俺を殴って落ち着くならそれでいいよ。その代わり、あとで絶対仲良くなってショッピングとか付き合ってもらうから。
そんなことを思って、ギュッと目をつむって殴られるのを覚悟した。
けど、いつまで経っても二度目の衝撃は起こらなくて。
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