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第52話
目を開ければ、そこには耐えきれずにぼろぼろと泣いている理音くんが居た。
固く握られていた拳は下ろされていて、抑えつけられてた肩の力は抜けていた。
「ひッ……う、……っ」
『殴れるわけない。だって俺は、昂平の恋人でもなんでもないんだから。』
そんな、こっちが泣きたくなるような悲痛な気持ちが伝わってきて。理音くんの泣き顔に見惚れながら、俺は内臓が煮えたぎるような激しい怒りを感じた。
それは理音くんの後ろで、ワケがわからない、いう顔で俺と理音くんを見つめている馬鹿犬に対して、だ。ニブイのも、ここまできたら犯罪だろう。
気がついたら、俺は理音くんの横をすり抜けて、間抜け面しているワンコの顔を打っていた。今まで言ったことのないような、恥ずかしいセリフを吐いて。
『この、馬鹿犬!好きな子がこんななるまでほっとくんじゃねぇよ!てめーはそれでも男か!?臆病も大概にしろよな、この馬鹿野郎が!!』
好きな子、って言ってやったのはもうサービスだ。さっさと告白してくっついてしまえ、このバカップル!!
『お…俺は…』
そうだ、このまま勢いで言ってしまえ!玉砕するなんてことはありえねぇんだから!!
けど理音くんは理音くんで、俺が『好きな子』って言ったことに対して『こいつ昂平が俺のことを好きだって勘違いしてやがるな』みたいな顔をしていた。
どーしてそんなに伝わらないかねぇ?
「んぁ?…なんだこの状況。修羅場?」
……そして、なんでこのタイミングで帰ってくるんですか、俺の大好きな小野先生は。
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