57 / 141

第57話

撮影のために少し肌蹴ていた服を整えながら立ち上がると、斎藤さんが俺のそばに来た。 「RIONお疲れ!あのさ、この後時間ある!?飛び込みの仕事なんだけど」 「どんな内容ですか?」 本当に売れっ子だな、最近の俺。 新人だからギャラは安いし、特に断ることが無いからオファーしやすいんだろうけど。 「○○って雑誌のね、キス企画なんだけど」 「はい?」 キス企画?なんだそれ。 「女の子の憧れのキスのシチュエーションみたいなのを撮る企画だよ!月一連載で男も女も毎月色んなモデルがやってるんだけど、RIONは初めてだよね。今月は女の子はマナミちゃんで、彼女相手はRIONがいいってきかないみたいでさー」 マナミって……あの枕ビッチか。佐倉先輩がファンだっていう。 「それ、最初は相手俺じゃなかったんじゃないですか」 「いやーそれがね、同じスタジオで撮影らしくって、RIONが来てるって知ったマナミちゃんがいきなりワガママで言っちゃったらしいんだよ。それで男モデルの藤沢さん、気を悪くしたみたいで帰っちゃったんだって」 おいおい。 何してくれてんだマナミさんよ。 「それ、俺受けたらとんでもなく失礼っつーか藤沢さんに悪くないですか。俺いやですよ」 つーかそんなアホ女の要求ほいほいと通すなよ、バックが大物なのかしらんけど。 「そこはちゃんと話通しておくから!悪いのはマナミちゃんだけでRIONは仕方なく受けた体にしておくから!その辺は説明しなくても藤沢さんも分かってると思うけどね。RIONはマナミちゃん嫌いかもしれないけど、そこをなんとか」 なんでバレてんだ。 「ホントに、話通しておいてくださいよ…藤沢さんとか超先輩じゃないですか。俺は話したことないけど…ベテランからこんなことで嫌われたくないですし」 RIONがいいとかマナミに言われた時点で、俺も嫌われてそうだけど。 「おっけおっけ!じゃ、撮影は4時半からだからまだ余裕あるよ、楽屋でゆっくりしといで」 「昼寝してていいですか。メイクさんに呼ばれたら起こしてください」 「了解!ありがとうね、RION!」 ホントは嫌だけど、斎藤さんのお願いなら仕方ない。俺のために本当いつも色々頑張ってくれてるもんな。 絡みの企画ならもうけっこうやってるし。たとえ嫌いな女だろうと、キスの一つや二つ……いや、今までキスなんてしてないけど。 つーか俺、ファーストキスもまだだったな。初めてがあんな女になるのか……うっかりでもいいから、昂平としておけばよかった。 昂平は、少しは俺のことを気にしてくれているだろうか。

ともだちにシェアしよう!