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第58話
楽屋に戻って畳の上にゴロンと横になるけど、不思議と眠気は襲ってこない。昼食を食べてないせいかもしれない。
学校を出たときに斎藤さんに『ごはんはどうする?』って聞かれたけど、食欲もないし食べるのも面倒だったから、『済ませた』って言ってしまった。朝練に行かなくなったから、母ちゃんも早起きしてまで弁当は作ってくれなくなった。だから昨日とおとといの昼飯は近くのコンビニで買った。
寝不足なはずなのに、軽い空腹感で目は冴える一方だ。
それでも、昂平のことしか考えていない。
それと少し、宇佐木のこと。
俺が逃げているから、昂平は宇佐木と昼食を食べているんだろうな、って思う。当然のことなのに、それを嫌だと思って胸を痛める俺はなんて自分勝手なんだろうか。
もうだめだ。
昂平のことを考え過ぎて頭がおかしくなりそう。もし昂平が宇佐木と付き合い出したら……俺、どうなるんだろう。
今度は本当に殴ってしまうかもしれない。いや、殴る気力もないかもしれない。結局、昂平のことも宇佐木のことも避け続けているのはそれが原因だ。
恐いから。
現実を、突きつけられるのが。
「昂平……」
あの約束を、まだ覚えてくれてたらいいのに。
恥ずかしいけど、今の俺なら昂平に結婚しようって言われたら素直にうんって言える。言われるはずないから、思うだけなんだろうな。
好きだなんて、言葉にもできやしない。
すると、スマホのバイブが鳴った。
誰だよ。
――昂平!?
がばっと身体を起こして、スマホを操作した。来てたのはラインだ。
『今どこ?』
昂平が、俺を捜してくれてる……。
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