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第60話
女の子と絡むから、いつもより少し大人っぽくて男っぽいメイクと髪型にしてもらった。
さっきの撮影は綺麗で華奢な男の子って感じだったから、俺はまた鏡の中で違う自分を発見する。
男っぽい俺もなかなかイケる。メイクさんも『RIONカッコいい!』って大絶賛。
色んな角度で鏡を見ながら、(ナルシストなんじゃなくて、最終チェックだ最終チェック)昂平はどっちの俺が好きかな、なんてことを考えて現実逃避する。
だって。
「RION~!!超久しぶりーッ!前に一回一緒に撮影したよね!あたしのこと覚えてる?」
メイクを終えた俺のところに、今日の元凶が現れたからだ。モデルのマナミだ。
「ええ、今日はご指名だそうで、よろしくお願いします」
ご指名、はもちろん嫌みを込めて言っている。けど俺はニッコリと笑ってやった。
「えへへ!ほんとは今日の相手藤沢さんだったんだけどぉ、あたしがどーしてもRIONがいいって言って変えちゃった!藤沢さんには悪いことしたなって思うけど、でも通ったってことはイイんだよねー!」
「は……はは……」
マナミは高校生じゃないから(女子大生だったか?)当然俺より二つ三つは年上だ。
見かけとテンションは女子高生のようだけど、いや、最近の女子大生はこんなテンションなんだろうか?
素顔はまあまあ可愛いんだろうけど、それを覆い隠すような派手なメイクをしている。
宇宙人みたいに見えるカラコンに、毛虫のような付け睫毛。いかに自分を可愛く見せるか頑張ってる女の子は可愛いと思うけど、男はナチュラルメイクの方が好きに決まっている。
だからきっと、男受けはあんまり考えてないんだろうなーと思う、けど……
近くで見るとこわい。
「RIONキス企画初めてだよね?あたし実は二回目なんだけど、次は絶対RIONがいいって思ってたんだー!マジ、今日RIONがこのスタジオで撮影で超ラッキー!RIONのファーストキス企画ゲットだしぃー!」
それについて、俺は何て返せばいいのだろうか。キス自体初めてだっつぅの。額に初心者マーク貼っとくか。古いか。
「マナミさんの期待に添えるようなキス、できるといいんですけどね」
「今更何言ってるのぉ、RIONってテクニシャンなんでしょ!?超楽しみなんだけど!あ、舌入れても構わないからね!うんとエロいキスしてっ」
し、舌だと!?
童貞になんつーこと言うんだこの女!
「マナミちゃん、舌とか入れたら企画倒れだよー、エロいキスじゃなくてステキなキス特集なんだからねー」
「あーそっかぁ。じゃ、カメラ回ってないとこなら舌入れていいよ、RION!」
メイクさんにたしなめられたものの、この女……誰が入れるかっ!
つーか俺はテクニシャンのフリなんてしたことないんだけど。勘違いって恐い。他人の目にはRIONがどんな風に映ってんだよ。
俺はただ、RIONは俺によく似たカッコイイ男だとしか思ってないんだけど……。
そう、RIONは俺とは別人なんだ。だからキスなんてどーってことない。
「マナミちゃんもメイクするよー」
「はーいっ」
どーってことないんだ、うん。
相手がマナミだからアレだけど、女の子とタダでキスできるなんてラッキーだと思え、俺。
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