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第61話

「じゃあRIONとマナミちゃん、撮り入りまーす!」 「はーい!」 ガシッとマナミに腕を組まれて、ひきずられるような体勢でカメラの前に行かされた。逃がさないわよ~とでも言われてるみたいで恐い。 まーいくらイヤっつっても仕事なんだから、逃げ出すワケないっての。 「じゃ、撮りまーす。二人向き合って―」 逃げ出すはず…… 「ン、RIONいつでもキスしてねっ」 「………」 ない、だろ? あれ、なんで身体が動かないんだ? 「あれ?どうしたのーRION。固まってるよー」 「す、すいません。マナミさんが綺麗だから緊張しちゃって」 心にもないことを言う。 メイクさんにメイクしてもらったからさっきみたいにケバくはないけども。綺麗というよりは可愛いけども。 「やだぁRIONったら可愛い!やっぱ高校生なんだぁ!」 「珍しいね~RIONが緊張するなんて」 「ほんとほんと!」 「すいません、もう一回お願いします」 何やってんだ俺、集中、集中しなきゃ。 えっと、いつもどんなふうにして撮ってたんだっけ。RIONになるには、そう、簡単だ。レンズの向こうで、昂平に見られてるって思えばいい。 「じゃ、もっかい行くよー」 「はーい!RION、緊張しないでぇ、リラックスしてリラックス!」 「………」 昂平に、見られてる? 好きでもない女と、キスしてるところを? そんなの…… 「無理……」 「えっ?」 「むり。むりむり、やっぱ無理です俺、ごめんなさいっ」 「ちょ、どーしたの!?RION!?」 「キスなんて、できない!」 本当に見られているわけじゃないけど、俺がRIONに切り替われるのは、いつだってレンズの向こうで昂平に見つめられてるって前提があるからだ。 そうじゃなきゃ、俺はモデルの『RION』にはなれない。 俺はそこらへんにいる、ふつーの高校生なんだよ。 「RION、どうしたの!?」 斎藤さんの焦った声が遠くのほうから聞こえた。同時に、スタジオ中に溢れるざわめきにも気がついた。 「何よ無理って!アタシとはキスできないってこと!?ちょっとRION聞いてんの!?せっかく指名してあげたのに、ふざけんじゃないわよ!」 「そんなの、俺が頼んだわけじゃないっ!!」 「なっ!?」 別にマナミ、アンタだけじゃない。 俺は、昂平以外の奴とキスなんてしたくないんだ。相手が昂平じゃないと、キスなんて……できない! 「斎藤さん、ごめんなさい!」 「RION!!」 俺は、マナミを軽く突き飛ばして、撮影用のメイクと髪型の服のままで撮影スタジオを飛び出した。

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