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第68話
*
「…理音が好きだから、たくさんキスした。お前は、違うのか?」
なんで、昂平。なんでいきなりそんなこと、俺が好きだとか言っちゃってんの。
色々急展開すぎて頭がついていかない。
確かに、俺からキスした。
今しないと、初めてのキスを俺は昂平以外の誰かとしてしまうかもしれないって思ったから、こわくなって……。
そう、こわくなって俺は仕事場からも逃げ出してしまった。斎藤さんからも逃げだして、
ああもう、どうしよう!
そしたら逃げ出した先に、何故か昂平が居た。
俺がいま、会いたくて会いたくて仕方なかったから、幻を見たのかと思った。
その腕の中に飛び込んだらやっぱり昂平は本物で、俺をこんなところまで連れ出してくれた。俺が逃げたい、と言ったから。
いつだって昂平は、俺がピンチの時には助けてくれる。俺のヒーローだ。
それで、どうしようもなく好きだって思って、キスしたくなって、思わず何も言わずにキスしてしまった。
そしたら、そしたら……っ
「理音、落ち着いて俺の質問に答えろ」
「……っ」
「お前は、俺のことが好きか?」
落ち着け。
落ち着くんだ、俺。
昂平の質問に答えるだけでいい。
そうだ、落ち着いて……
「……す、き……」
ああ、言えた。よかった。
さっきから少し不機嫌そうで、強張っていた昂平の顔が徐々に緩んできた。俺が大好きな顔、だ。
「理音。ガキの頃から俺はずっとお前のことが好きだった、お前だけが……」
「っ……!」
また不意に抱きしめられて、耳元でそんなことを囁かれた。俺の身体はまた一気に爆発したように熱くなった。
「な、何で……いきなりそんなこと、てか、何で昂平はスタジオの外に?」
「お前に会いに来たんだ。好きだって言おうと思って」
「なんで……いきなり」
「一分でも、一秒でも早く伝えたかったから」
「だから、なんでっ?」
昂平は抱きしめていた腕を緩めると、俺の顔を覗き込むようにして言った。
「……お前を誰にも取られたくなかったから」
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