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第69話

俺の目の前にいるのは、本当に昂平? 俺の知ってる昂平は、仏頂面で、いつもぼけーっとしていて、バレーとか勉強とか何かに必死になっていても、絶対にそれを表には出さないようなクールな奴で、でも優しくて、穏やかで、その昂平がこんなに熱っぽい顔で、俺を見つめているなんて。 ドキドキして、心臓がこわれそうだ。 「宇佐木に言われて気付いたんだ。高校に入学してから、いや、モデルを始めてから、いつだってお前は他の誰かにいつかっさらわれていかれてもおかしくない状態だった。それなのに、俺は今までその可能性を考えもしなかったんだ。……お前が、いつも当たり前みたいに俺の側にいてくれたから……」 「……」 だってそれは、俺が昂平から離れたくなかったからだ。 「でも、お前がいつか誰かと結婚して俺から離れていくって考えたら……すげえ、恐くなった。好きだって伝えて嫌われるよりも、そっちのほうが嫌だったんだ」 昂平が俺と同じことを考えていたんだ、ということが分かって、胸の奥がきゅうっとした。締め付けられるような感覚。 「お前が女と遊んでるって言ってたのは別に面白くないだけで平気だったのに……変だよな」 「俺は……」 「ん?」 俺も、思ってることを正直に伝えようと思った。 「昂平は、宇佐木のことが好きなのかと思った。そんで、宇佐木も」 「はああああああ!?」 キスしそうなくらい近かった顔の距離を一気に離すと、昂平は素っ頓狂な声を上げた。 そんなに驚くことか?昂平が、珍しく青ざめてるし……。 「いやだって昂平、俺に紹介したくないとか言ってたじゃん。保健室だって、俺が怒ってるのにお前は宇佐木の味方するし……」 「してねぇ!きもちわるっ!ない。それはないぞ理音。大体あいつ、保健室のおっさんが好きなんだぞ。毎日つきまとって保健室で飯食ってるんだぞ!」 「そ……そうなのか?」 保健室のおっさんて。 小野先生、ちゃんとすればイケメンなのに。宇佐木のほうがよくわかってんじゃねーか? 「ありえないから、紹介したくなかったのだって、あいつ生粋のゲイだから理音を襲ったりしたらどーしようって心配だったんだ!俺より仲良くなるのが嫌ってのも勿論あるけど!」 「へ……へぇ……」 なんだそりゃ。 つーか昂平、俺のことめっちゃ好きじゃん。そう意識した途端、また身体が熱くなってきた。そんな俺に気付いたのか、昂平も顔を赤くしている。珍しく取り乱した自分に恥ずかしくなったのかもしれない。 誤魔化すように、話題を変えてきた。 「……暗くなってきたな。帰るか……」 「うん」 「理音、服とカバンどうするんだ」 「たぶん、斎藤さんが俺の家に持ってきてくれると思う。……待ってるかもしれないから、謝らなきゃ……」 「何があったのか、教えてくれるか?」 「……帰りながらな」 俺達は路地裏を出ると、駅方面に向かって歩き出した。 人がいるところまで、手を繋いで。

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