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第89話

そして俺は、昂平が言った言葉に衝撃を受けた。 「俺も一緒に行く」 「はぁっ!?」 昂平が、俺の撮影現場に、一緒に行く?なんで!? 昂平は、表情そのものはむすっとしているが、真剣な顔で俺を見つめている。まさか、本気?でも、本当に何で? 「部活は!?」 「サボる。人生初の部活サボりだ」 「なんで部活サボってまで……もしかして昂平さ、俺のこと信用してねぇの……?」 まさか俺が、昂平が見てないからって千歳くんとどうこうなるんじゃないかって疑ってるのか?冗談じゃない! 俺はこんなに、昂平のことしか考えてないのに。昂平しか、好きじゃないのに!! 思わず、じわぁと涙が浮かんできた。泣くなよ男のくせに、みっともねぇ……! 「理音」 ふわりとした感触と声が、頭の上から降ってきた。それは、昂平が俺の頭の上に優しく手を置いた感触だった。 俺は思わず顔をあげて、昂平の顔を見つめた。そこには、少し困った顔で笑っている昂平がいた。 「……?」 「馬鹿、俺がお前を信用してないわけあるか。こんなことを言ったらお前は怒るかもしれないけど、俺はな理音、バレーするのは好きだけど、バレー選手になりたいわけじゃない。将来の夢は昔と同じで、オヤジのような刑事になることだ。大会も近いし部活は大事だと思うけど、お前と天秤にかけるほどのものじゃないんだ、俺にとっては」 昂平の言いたいことが、俺にはよく分からない。ただ、バレーよりも俺のほうが大事だってことは分かった。 それは素直に嬉しいけど、俺の撮影についてくる理由にはならない。 「でも、だからって」 「俺には、部活よりも俺の大事な理音に粉かけようとしてる千歳シンジを牽制する方がよっぽど重要なんだよ。お前のことを信用してないとか、そういうんじゃない。俺が千歳シンジに言ってやりたいんだ。俺の理音に手を出すな、って」 「っ……!」 そう言って、くしゃっと俺の髪の毛を軽く掴んで、撫でた。 「ばか、俺、千歳くんに男の恋人がいるってカミングアウトしてねぇんだぞ」 「ん。でも仕掛けてきたのは向こうが先だからな。理音が嫌がっても俺は言うぞ」 「本気か?」 「本気だ」 そんな顔で言われたら、俺は何も言えなくなってしまう。 だから俺は、昂平の胸にすがりついて、小さな声で「勝手にしろ、ばか」と言ってやった。

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