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第92話
後部座席に乗りこむなり、昂平は俺の左手をぎゅっと握った。
俺が驚いて昂平の顔を見ると、昂平は優しく微笑んでいた。
「……ッ!」
俺は自分で分かるくらい顔が熱くなって、耐えきれずに目線を外した。
本当はいつも助手席に乗るんだけど、今日は昂平がいるからなんとなく後部座席に座った。けど、こっちに座って本当によかった。
身体から余分な力が抜けて行くのが分かる。自分じゃわからなかったけど、俺、結構緊張してたんだな。
「ねぇねぇ、二人はいつから付き合ってるの?馴れ初めは?」
バックミラー越しに斎藤さんと目が合って、そんなことを聞かれた。
まるで普通の男女に聞くみたいな感じだ。不思議すぎて、俺は斎藤さんに逆に質問してしまった。
「斎藤さん、男同士に偏見ないんですか?」
「ないねぇ。この世界じゃ珍しいことじゃないし。千歳君だってRIONが好きじゃん」
「へッ!?」
な、なんで知ってるんだ!?昨日の千歳くんのブログ見たのかな!?
「多分、スタッフは全員気付いてるよー。気付いてないのはRIONくらいじゃないの?彼、結構態度とかあからさまじゃん。でも、RIONにはずっと恋人がいるみたいだからって告白しなかったみたいだよ」
「え……」
「君のことだったんだねぇ。えっと、コウヘイ君?」
話が昂平に振られた。昂平は、ずっと俺の左手を握ったままだ。
「犬塚昂平です。理音と付き合い始めたのは三週間前からです」
「えっ!?超最近じゃん!!理音、それまで別の恋人がいたの!?」
「え、い、いませんよ!!でも俺は、ずっと昂平のことが好きだったから……」
突然の俺の言動に、今度は昂平が驚いた顔をしてみせた。ふん、もうカミングアウトしてるし、斎藤さんには偏見がないって分かったから、俺だってこれくらいのことは言えるんだよっ!
「うわ~RIONにノロケられたぁ。君、幸せモノだね!?RIONを狙ってる輩、多いんだよ~この業界。男も女もね。ところで二人は、中学の同級生とか?RIONがずっと好きだったってことは」
また、昂平が答えた。
「幼馴染です。母親同士が仲良くて、赤ん坊の頃からずっと一緒に育ってきたから、もう兄弟みたいなものなんです。理音がモテるのは知ってます。でも、俺の方は物心ついたころから理音が好きでしたから、他の誰が理音を好きになろうと負ける気がしないし、絶対に渡さない」
今度はまた、俺が赤面して動揺する番だった。断言した昂平の言葉に、斎藤さんも一瞬、からかう言葉を忘れたようだ。
「きょ、強烈だね。あははっ、高校生って若いなぁ~!おじさん思わず汗かいちゃったよ!」
「ハンカチ使います?」
「エアコン入れるよ……」
今、この車内で平熱で平然としてるのは昂平だけだ。ったく、ほんとにこいつは。
「ん?」
大好きだ、昂平。
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