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第95話
離れるのが名残惜しくて、身体を離す前にチュッと額にキスした。丁度いい位置にあるんだよな、理音のデコ。
そして俺たちはトイレから出た。
「「「あ。」」」
トイレのドアを開けたら、そこには俺と同じくらいの身長の、浅黒い肌のイケメンが立っていた。
「ち、千歳くん!?」
「RION……」
何!?こいつが千歳シンジ!?驚く理音を振り返り、すぐにまた正面を見た。
「お前が、RIONの……」
うおぉ……な、なんかキラキラしたオーラを纏っていやがるッ……!
不覚なことに、俺の心は一瞬だけ「初めて芸能人をナマで見た人の気持ち」になっていた。
「あ、あああのっ、千歳くん、こいつはその、俺の友達で今日見学に来ててっ」
「いいよRION、隠さなくても。悪いけど全部聞いてた。こいつがその、昨日言ってた恋人なんだろ?ここ結構人通るし、控え室行こうぜ」
少し、拍子抜けした。
本物の千歳シンジが写メや雑誌で見るよりもイイ男だったから……じゃない!もちろんそれも少しはあるが。
今日ヤツに会ったら、すぐに「俺の理音に手を出すな!!」って言うつもりだったんだが、どうやら先ほどの会話を一部始終聞いていたとのことで、千歳の落ち込みようが半端なかったからだ。
まあそれは……俺も逆の立場で想像したら、わからんこともない。というか、むしろ残酷すぎる仕打ちのような気がする。牽制どころじゃないというか……
満塁ホームラン三周、コールド勝ちだ!!!
*
控室に入り、荷物を置いて俺達は一旦落ち着いた。
確かヘアメイクの和泉さんは10分後にメイクに入る、と言ってなかったか。
もうちょっと急いだ方がよくないか?と部外者の俺は余計な心配をしてしまう。理音は少し時間にルーズだからな。
千歳シンジは、今日理音が着る衣装を説明しながらも、俺について話しだした。
「RIONの恋人って、男だったんだな。ちょっとそういう気はしてたんだ。だから昨日、ちょっと告白まがいなことしたっていうか……悪かった。彼氏が今日来たのも、俺に何か一言言いたくて、なんだろ?」
ちら、と俺の方に視線を寄越した。『彼氏』という新鮮な単語にジ―ンとしてしまう
そうだ、俺ってもう理音の彼氏なんだな……フフ……
「おい、何笑ってんだよ昂平。キモイから」
「悪い。彼氏という単語に浮かれてしまった」
「中学生か!」
「でも、お前も顔赤いぞ」
「……っ!!」
そんな俺達のやりとりを見て、千歳シンジがぷっと吹き出した。
「ははっ!RIONってキモイとか言うんだな。初めて聞いたわ!なんか、普通の高校生みてぇ」
「ふ、普通の高校生だよ?俺」
「ううん。俺といる時とか撮影中もだけど、RIONはモデルのRIONだ。そんな顔で笑うなんて、きっとここにいるスタッフ全員誰も知らねぇよ。勿論、ファンもな」
ちら、と理音を見たら理音も俺を見ていて、目が合った。そして、上目遣いで俺に問う。
「俺、モデルのときと普段、そんなに違うかな?」
今更か。
「全っ然違うぞ。なんていうか、今のお前は借りてきた猫みたいだ。猫田だけに」
「はあ!?なにそれ、別に名字が猫田じゃなくても使う単語だし!」
「分かって使っているんだけどな」
理音の突っ込みはどこかズレている。俺も可笑しくなって、ライバルの前なのに笑ってしまった。
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