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第128話
「今日お前、めちゃくちゃ佐倉先輩に怒られてたな。いつもよりボケっとしてたし。何で?俺に見られてるのがそんなにキンチョーした?」
「……あぁ」
悪戯っ子みたいに笑いながら言う理音に、クソ真面目な顔で返した。その通りだからだ。
すると理音はまたくつくつと笑って、俺の手を握ってきた。
「り……理音?」
急いで周りを見渡すと誰もいなかったが、住宅街だからいつ誰に見られるか分からない。もしかするとお互いの家族に見られる危険性だって少なくもないのに!
焦る俺とは裏腹に、理音はもっとギュッと強く俺の手を握りしめてきた。
「……昔はさぁ、遊んだあといっつもこーやって手を繋いで帰ったよな」
「え?あ、ああ」
「男同士なのに、誰の目も気にしなくってさ。まあ、俺はよく女に間違えられてたから変な目でも見られなかったんだろうけどさ」
昔話をされて、俺も思いだした。
可愛すぎて、よく乱暴なガキどもにいじめられていた理音。いつも俺が駆けつけて、助けて、よくこうやって手を繋いで帰った。
そしていつの間にか、理音は俺としか遊ばなくなった。当然俺も理音としか遊ばなかったけど、たまには他の子とも遊びたい、と思ったことはなかった。
理音のことが、大好きだったから。
いつから、この手を離してしまったんだろう。俺も、焦るのはやめてギュッと強く握り返した。
「……お前は本当に昔から可愛かった。今も可愛いけど」
「身長178センチの男に可愛い連発してんじゃねぇよ」
「だって可愛いんだから仕方ないだろう」
「お前、目悪かったっけ?」
「残念ながら視力は両目2.0だ」
そーだったな、と言いながら理音はまた笑った。どうしていきなり、昔話なんて始めたんだろう。恥ずかしがり屋の理音が外でこんな風に手を繋いでくるのも、どこかおかしい。
「理音、なんていうか今日は……素直、なんだな?嬉しいが、少し調子が狂う」
「たまにはいいだろ、俺が素直でも。てか最近はすげー素直じゃね?」
「あ、ああ……まぁな。でももし無理してるなら、俺はどんな理音でも好きだから」
「別に、無理なんてしてねぇよ」
俺が言い切る前に、理音が遮った。
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