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「ねえねえ、花音ちゃんのお兄ちゃんってモデルなんでしょ?」
「うん、そうだよー」
「お姉ちゃんが買ってた雑誌に載ってるの見たよ。かっこいいね!」
「でしょ?えへへ。自慢なの」
わたしは今11歳で、小学5年生。
お兄ちゃんの載ってる雑誌は大人向けのファッション誌だから、同じ年でお兄ちゃんがモデルをやってることを知ってる子はあんまりいない。それにお兄ちゃんは『RION』っていう名前でモデルをやってるから、RIONがわたしのお兄ちゃんだって知ってるのはお兄ちゃんと同じ高校に姉妹がいる子だけ。
たまーに『お姉ちゃんがサイン欲しがってるからちょうだい』、って言ってくる子もいるけど、お兄ちゃんは『直接学校で言ってくるように言って!』ってわたしに言う。だからまるでわたしがケチみたいな扱いを受けるんだけど、書いてくれないからしょうがないよね。
そういうこともあって、こうやってサインの話とか無しでお兄ちゃんを褒められるのはすごく嬉しい。本当に、お兄ちゃんはわたしの自慢なんだ。
「へっ、猫田のブラコン病!」
むっ、この声は……
クラスで一番いばっている阪井くんだった。何かとわたしに意地悪なことを言ってくるから、わたしは阪井くんが大キライ。
「ちょっと阪井くん、やめなさいよっ」
お友達の結美ちゃんがわたしの代わりに注意してくれたけど、阪井くんは黙らない。
「なーにが自慢の兄ちゃんだよ!兄弟自慢とかイタイ奴!俺もお前のに―ちゃん雑誌で見たことあるけど、なんか裸で写ってる写真が多いし、オカマみたいじゃねえか!」
阪井くんの周りにいる男子がはははは、と笑う。遠くの席に座ってる、女子も。
「お兄ちゃんはオカマじゃないもんっ!かっこいいもん!」
お兄ちゃんを知らない子に誤解されたくないから、私は急いで否定するけど……
「それってオマエだけが思ってんじゃねーの?俺はあんな女みたいな兄貴、いらねーっ」
「……っっ」
阪井くんはとても口が達者で、わたしはすぐに言葉に詰まってしまう。ほんとはすぐに言い返したいのに、上手い言葉はいつもあとから浮かんでくる。
「お兄ちゃんはかっこいいもん!!」
「だからそれ思ってんのお前だけだって!ホントならしょーこ見せろよなっ!お前の兄貴がかっこいいってしょーこ!」
阪井くんなんかキライ、キライ、大嫌い。
わたしも、お兄ちゃんのカッコよさをちゃんと伝えられたらいいのに。
お兄ちゃんの載ってる雑誌をこっそり持ってきてもいいんだけど、見つかって先生に取り上げられたらお母さんに怒られちゃう。それに阪井くんは雑誌に載ってるお兄ちゃんを否定してるから、見せたって無駄なこと。
「……大体お兄ちゃんがそんなにカッコイイならさあ、花音ちゃんだってもっと可愛いはずだよねぇ」
「言えてる―」
遠くで聞いてた女子、野田さんと福田さんが意地悪なこと言ってるのが聞こえた。
私が可愛くないから、説得力がないんだ。
本当に、お兄ちゃんはかっこいいのに。
じわぁ、と涙が出てきた。
泣いたらまた阪井くんがからかうの、わかってるのに……
「猫田が泣いたーっ!こいつ兄貴の悪口言われるとすぐ泣くからおもしれーっ」
「マジでブラコンだよなーっ!」
それからその日は一日中、ゆううつだった。
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