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そして、あっという間に土曜日はやってきた。
「案内は俺と昂平の友達の宇佐木ってやつに頼んでるから。金髪だけど不良じゃないから恐がらなくていいぞ。校門に居なかったら、来るまで待っててくれるか?どーしても来なかったら俺のケータイに電話して」
バレー部のジャージを着たお兄ちゃんは、わたしに案内役のひとの説明してくれる。
「お兄ちゃん、昨日から説明、もうこれで三回目だよ……?ウサギさんでしょ、わかったから」
耳にタコができそうだよ!
それにしてもウサギさん、可愛い名前!
「可愛い妹が心配なんだよー!もし校内で迷子になったりロリコンにさらわれたりしたら!」
「大丈夫だよぉ、カノンもう小学5年生なんだから…」
街でも迷子になんか、ならないし。
でもお兄ちゃんが心配するのもわかる。
だって。
「高校生から見たら十分子どもだよっ、ああもうカーチャン、なんで今日に限って町内会の集まりなんかあるんだよー!息子の初勇姿なのにーっっ!」
今日の応援に行けるのは、コーヘイくんちも合わせて、わたし一人だけだったから。お母さんはお皿洗いをしながら、お兄ちゃんに返事した。
「仕方ないでしょ、今年は地区の役員なんだから集まりを休むわけにはいかないのっ!それにあんたの勇姿はファッション誌で毎月見させてもらってるわよ」
「種類が違ぇし……千恵さんも普通に日勤だしなぁ」
コーヘイくんはいつもレギュラーで試合出てるから、千恵おばさんはわざわざ仕事の休みを取ったりしなかったらしい。まあ、それはそうだよね。決勝戦とか、全国大会とかなら行くんだろうけど。
≪ピンポーン≫
「あ、昂平だ!!じゃあなカノン、くれぐれも校内では宇佐木から離れないように!これお兄ちゃん命令な!あと宇佐木には惚れないように!後でお前が泣くだけだっ」
「なんで?」
ウサギさんがどんな人が知らないけど、いまどき年の差なんて誰も気にしないでしょ?
「男しか好きになれない奴だからだ!」
「えっ……」
それは、聞いておいてよかったかも。
なんとなくだけど。
「じゃあ、行ってくる!」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。……絶対勝ってね」
「おうっ」
お兄ちゃんは笑いながら手を振って、家を出た。
「……」
わたしは、賭けのことはお兄ちゃんに言わなかった。ただでさえかっこいいとこ見せてってプレッシャーかけてるのに、これ以上かけて負けちゃったらやだもん。
お兄ちゃんを信用してないわけじゃないんだけど……。
「カノン、どうしたの?本当に一人で行ける?お母さん高校まで送って行くだけ行こうか」
「一人で行けるよっ!大丈夫、お兄ちゃんのお友達が来てくれるんだしっ」
男しか好きになれないという、ウサギさん。一体どんな人なんだろう?分かってるのは、身体が細くて金髪だってことだけ。
「それにしても、類は友を呼ぶのねぇ……」
「え?」
お母さんがひとり言を言ってたけど、その意味はわたしにはわからなかった。
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