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わたしはお兄ちゃんよりも一時間遅く家を出た。お兄ちゃんとコーヘイくんの通う東谷高校は比較的家の近所だから、歩いてもすぐ着く。
逆方向だけど、距離はわたしの通う小学校と変わらない。
校門についたけど、ウサギさんはまだ来てないみたい。土曜日だから学校はお休みみたいだけど、高校生は部活や課外授業っていうのがあるみたいで、制服を着た人がたくさん入って行った。
ひとりだと、小学生のわたしはやっぱり目立つみたいで、ジロジロ見られる。なんか恥ずかしい……ウサギさん、早く来ないかなぁ。
わたしは高校生が恐くて、誰とも目を合わせたくなくて俯いていたから、人が近づいてきてるのに気付かなかった。
「君、カノンちゃん?理音くんの妹さん?」
「えっ……はい!」
頭上から降ってきた柔らかな声と、お兄ちゃんの名前に反応してはっと顔をあげたら、そこにはキラキラした金髪で両耳にオシャレなピアスをいくつもつけた、綺麗な男の人が立っていた。
「俺、宇佐木葵。今日君の案内役を頼まれたんだけど、お兄ちゃんから聞いてる?」
「き、聞いてます!今日はわざわざありがとうございます、よろしくお願いします!!」
お兄ちゃんのお友達だからといって、わたしみたいな小学生の相手なんて面倒くさいよね。
わたしだって幼稚園の子を押し付けられたらいやだし。だからできるだけウサギさんに悪い印象は与えないように、せいいっぱい頭を下げた。
「ご丁寧にどうも。あんまり固くならなくていいよ?俺見た目は派手だけど、別に不良じゃないから恐くないし」
「あ、それも聞いてます」
「そう?じゃ、行こうか。もうすぐ試合始まるからね」
そう言って、ウサギさんはわたしに手を差し出した。
これ、手を繋いで行こうってことだよね…。もしかしてわたし、ものすごーく子どもだって思われてる?
「あ、ごめん嫌だった?今日理音くんレギュラー初出場だから、相手の高校のファンまで大勢が体育館につめかけてるんよね。だから手でもつないどかないと二階行くまでに離れ離れになるかなーって」
「べっ別に嫌とかじゃないんです!……それじゃあ……手、失礼します!」
迷子になんてなったら、あとでお兄ちゃんに怒られちゃう!妙に気合いの入ったわたしを見て、ウサギさんはクスクス笑ってた。
「はい、どうぞお姫様」
≪ぎゅっ≫
初めてお兄ちゃん以外の男の人と手つないじゃった!あ、コーヘイくんも居た。けどこの人も男の人しか好きにならないんじゃ、ノーカウントかな?
すると、ウサギさんはほほ笑みながら言った。
「ふふっ、理音くんとはあんまり似てないけど、カノンちゃんもモデルになれそうなくらい可愛い顔してるね」
「えっ、ほんとうですか?」
「うん。理音くんがめちゃくちゃ可愛いって言ってたのも分かるよ。俺一人っ子だからさ、君みたいな可愛い妹がいたら毎日楽しいだろうなぁ。理音くんがうらやましいよ、ついでに幼馴染みのワンコも」
「……!」
お世辞だってことはわかってるんだけど、すっごくうれしい!!初めてお兄ちゃんとコーヘイくん以外の男の人に可愛いって言われちゃった。(親戚のおじさんとかもノーカウント)ワンコってコーヘイくんのことかな?
あー、お兄ちゃんにウサギさんが男の人しか好きにならないって聞いててよかった。じゃなきゃわたし、絶対この人のこと好きになってた気がする!笑顔もすごく可愛いし!
それにしても、こんなにさらっと女の子を褒められるなんて、高校生ってオトナだなぁ。阪井くんも、高校生になったらこんな風になるのかなぁ?
「……」
まったく想像つかなかった。
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