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体育館に入ると、いきなりキャーッッていう女の人たちのものすごい悲鳴が聞こえた。
「!?」
「うわ、やっぱりすごいことになってるなぁ」
「試合まだ始まってないのにねっ」
「原因は多分あそこかな?」
「あそこ?」
わたしは、ウサギさんの細い人差し指が示した方を見た。そこには、女の人に囲まれまくってるけど、背が高いから頭二つぶんくらい出ている男の人がいた。
色黒の黒髪で、やたらとオシャレな格好をしてるその人は、わたしも何度か見たことのある人だった。お兄ちゃんが載ってる、ファッション雑誌の中で。
「も、モデルの……っ」
「そう、千歳シンジ。今日の試合見に来るとは聞いてたけど、やっぱりすごい人気だね~、RION目当てで来た人たちはほんとにラッキーだね」
「お兄ちゃんを見に来たのかな!?」
「多分ね。あとワンコ?友達になったらしいよ」
「ええっ、コーヘイくんすごい!」
「すごいっていうか、ズルいよね。俺、RIONだけじゃなくて千歳くんもファンなのにな~」
「へえぇ……」
お兄ちゃんといい、千歳さんといい、ウサギさんはけっこうミーハーだなぁ、と思った。
「さ、こんなとこじゃ見えないから二階に移動するよ、手ぇ離して迷子にならないでね~」
「は、はいっ」
わたしは、ウサギさんの手をぎゅっと握り直した。
*
そして、試合が始まった。今日の相手はライバルの北峰高校で、勝負はいつもどっこいどっこいらしい。
でも、お兄ちゃんがいるから大丈夫だもん!!お兄ちゃん、中学からずっと補欠だったけど、バレーはずーっとやってたもん!
モデルの仕事で忙しいのに、朝練だって毎日行ってて……がんばってるの、毎朝一緒に目が覚めてた(起こされてた)わたしが一番よく知ってるから。
「おにいちゃん、コーヘイくん、がんばれーっ!!」
今まで出したことのないような大声を出して、わたしは二人を応援した。
わたしは正直、バレーの詳しいルールもポジションもよくわかんない。けど、お兄ちゃんは前の方でよくブロックをしていて、時々アタックしてる。
コーヘイくんにボールが行ったときは、ずどーんっていうスゴい音でアタックして、ボールが相手のコートに叩きつけられてる。誰も取れないし、スゴい迫力!!初めてコーヘイくんもかっこいいって思っちゃった!!
「すっげーなぁワンコ。さっすがバレー部のエース」
「コーヘイくん、エースなんだ!」
スゴいスゴい!!お兄ちゃんは、エースじゃないけどっ……でも、ボールをブロックしたあとに点数が入ったときはヨッシャ!!てしてて、すごくかっこいい!
阪井くんに野田さん、見てくれてるかなぁ……。
「RIONーっがんばってぇーっっ!!」
「RIONー!ファイトぉー!」
な、なんか女子高生にまじって大人の人も沢山いる。なんか、本格的なカメラとか持ってるおじさんも……お兄ちゃんの仕事の人かなぁ?
あっ、千歳さんが話しかけてる!写真撮られてる!!やっぱりそうなのかも。
「あ、勝った」
「えっ!?」
「ほら、一試合目は25対22でウチの勝ち」
「ほ、ほんとだぁ」
千歳さん見てて気付かなかった。ごめんお兄ちゃん!わたし応援に来てるんだから、しっかり見なきゃね!!
だってお兄ちゃんたちが負けたら、わたしは阪井くんと野田さんの言うことなんでも聞かなきゃいけないんだもん。ウサギさんは大丈夫って言ってくれたけど……。
*
ニ試合めは、相手の北峰高校が僅差で勝った。次勝てなきゃ、負けちゃう。
「そんな不安な顔しないでカノンちゃん、ほら、理音くんがこっち見てるよ」
「えっ?」
慌てて下を見ると、ほんとにお兄ちゃんがこっち見てた。
「カノン!心配すんなよ」
「う、うんっ…!」
お兄ちゃん、かっこいい!
やっぱりわたしのお兄ちゃんは世界一かっこいいもん!もし負けても、それが嘘になるわけない!それにお兄ちゃんとコーヘイくんは絶対負けない!
「頑張ってお兄ちゃん!」
三試合目が始まった。
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