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第2話

家族と争うことはいつもの事。 なので、そこは気にしてなかった。 彼を自分のオメガとして受け入れさせることに全力を注ぎながら、彼と心を通わせあった。 2人で寄り添い、学生生活を送り合う。 笑って話して、ふざけてじゃれ合い、僅かな接触に心を騒がせた。 語り合わなくても、互いの気持ちはわかってた。 そして彼も自分の立場の複雑さを理解してくれていた。 待ってくれ、とは言わなかったが、待ってくれていた。 綺麗な彼。 ベータのようだ、と家族からは揶揄されたが、その目立たない美しさこそが、本当に美しいと思っていた。 オメガらしからぬとされた、突き抜ける快活さや、危なかしくはしゃぐ姿も、そう、ベータの少年のような普通さを愛していた。 触れ合うようなキスだけで耐えた。 彼も欲しがっているのを知っていたけど、そこは我慢した。 キス以上をすれば止まらなくなるのはわかってた。 獣になるだろう。 その日がくれば。 だが彼も獣になる。 だからいい、そう思ってた。 獣の自分を嫌わないはずだ。 周りのオメガとアルファがどんどん番になっていく中で耐えていた。 番になるには、カプセルを取り出しオメガが発情期を迎えて、セックスする必要があった。 学生なので避妊薬の処方も必須だ。 発情と避妊の両方をして、準備を整えて。 それには番になるという意志を互いに表明して、医師にオメガが皮膚下に埋めたカプセルを取り出してもらう必要かあった。 発情期を迎えないセックスだけを楽しむアルファとオメガも少しはいたが、それは嫌だったし、少数派だった。 それは、遊びだと知っていたからだ。 アルファはオメガに対しては真剣だ。 アルファには自分以外の全ての人間は競争相手でしかない。 家族でさえ。 自分のオメガを除いては。 オメガがアルファについては真剣なのはもっと切実な理由だ。 番がいるといないでは、生きることの困難さが変わるからだ。 番を得て、安全な発情期を迎える必要がある。 カプセルで、発情期を抑えられるのは20まで、と法律で決められている。 長期間はリスクの方が大きいとされていて、不安定な思春期から青年期にかけてのみ許されている。 その後は従来の抑制剤を使うしかないか、それは発情期を止めるものではない。 ヒートの影響は個人差はあれあるし、アルファの欲望触発を完全にシャットアウトするものではないのだ。 番を早く得て、項を噛まれることにより、その相手だけにしか効かないフェロモンを出す身体になることは、オメガの快適で安全な社会生活を送る上で必要なことなのだ。 そしてオメガには番は一人だけしか選べない。 慎重になる。 アルファもしようと思えば番を何人でも作れるが、アルファの場合は執着しやすい傾向から、それはあまりない。 アルファには世界は競争でしかないので、心を許す相手は1人で十分なのだ。 番は1人。 ( 浮気しないという意味ではない) 不思議なことに、番にしたオメガにアルファは執着する。 自分のモノだからだ。 他人が触れることは許さない。 異様なまでの執着で番のオメガに拘る。 だから、大抵のアルファは1人の番と添い遂げる。 執着は強い。 ベータならば怖がってしまうだろう。 だから、複数のオメガを番にするアルファはそのストレスで弱ってしまうと言われている。 競い争い奪い合うのがアルファの本能のため、複数のオメガに同じその生来の強い執着を向けるとその負担が多くなりすぎ、他のアルファとの競争を両立させるのが 厄介なことになり、弱ってしまうのだ。 唯一心安らぐはずのオメガとの関係もややこしくなるため、ストレスも増す。 なので、複数のオメガを自らアルファが持つことは無い。 本能的に避けるのだ。 有力なアルファが複数のオメガを同時に番にすることは確かにある。 オメガが有力なアルファの家系出身だったりすれば、だ。 家族同士でも争うが、パワーゲームには時に協力も必要。 そこには家同士の戦略結婚は当然ある。 ただ、複数の番を持つアルファは子供を産ませるための種馬にされたアルファで、そんなアルファには誰もなりたがらない。 負け犬だとされている。 もちろん、自分のオメガの条件に強い実家を持つことを含めるアルファもいる。 それはオメガでもそうで、互いの利害の一致で行われる政略結婚はもちろんある。 1対1の番ならば、アルファにもオメガにもストレスはない。 その場合は、まあ、その番はそれなりに上手くやっているように見える。 アルファとオメガの番同士になりさえすれば、離れられなくなるのだ。 ・・・それが自分の意志ならば。 その意味がどうことかを知ることになった。

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