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第2話 豊穣の祭①

**  王宮の森を抜けると、多くの人々が行き交う街道に出た。  豊穣の記念祭である今日は着飾った姿の者が多い。あちらこちらに即席の酒場や、水菓子売り、飴売り、占いなどが軒を連ねている。   蘇芳は内心舌打ちをした。 (昼間であれば、さほど警戒せずとも良いと思ったが……)  ガッハハハ、ワッハハハと酒場で酒を飲み散らす男たちを苦々しく睨みつける。  年に二度、春と秋に催される豊穣の記念祭は、ただ市民が健全に楽しむだけのものではない。  祭にかこつけ、目当ての女や男を引き込んでところ構わず絡み合ってもよいという、そういう暗黙の了解のある祭りなのだ。  無論ほめられたものではないが、これを機に若者がプロポーズを果たして国の人口増加に貢献したり、不能な配偶者のために子供を持てない婦人への救済、寡婦や男やもめの気晴らしなど切実な意味合いもあるため、王宮も見て見ぬ振りを続けている。  街の子供たちも多く出る昼間はさすがに危険は少ないだろうと踏んできたのだが、これは目算を誤ったかもしれぬ。  蘇芳は今度ははっきりと舌打ちをした。そんな事情など知らない無垢な主は、 「飴を欲しい」   と指を差す。  あまりのあどけなさに胸がきゅうとなった。コインを取り出してつかつかと店先に急ぐ。 「店主、そちらの飴をひとつ……あ」  注文の声を一度止め、 「お前たちも欲しいか」  と女官らにも問うた。 「え、いいのですか?」 「蘇芳様のおごりなのでは……あっ欲しいです」  私も。私も欲しい。次々に手を挙げる女官たちに蘇芳がうなずく。 「では四つ」 「へい、ただいま」  舌に色がつきそうな赤色の飴を舐め舐め呑気に闊歩する主と女官を見守って、ガラの悪い連中を近づかせないよう四方八方に目を光らせる。 「蘇芳、蘇芳」  と、主が袖をつんつんと引いた。 「どうか?」 「あのね、あっちの茂み? から、苦しそうな人の声が聞こえるのだけど。蘇芳、行って助けてあげて?」 「は、……」  やむなく耳をそば立ててみれば、 「あっ、んんっ……」やら、「いやっ、はああっ……」やら、とてもではないがご拝聴しかねるあられのない声が聞こえてくる。  一体これをどう主に説明したものかと頭を悩ませた。 「あ、あのですね、ひい様」 「はい」 「う……」  澄んだ目がまっすぐにこちらを見上げてくる。何やら心が痛んだ。   「その、あの者たちはその、ええと、ですからその」 「うん」  「あ、愛の交歓を、しているのです」 「……あい?」  堪えきれなかった春麗がブーと吹き出した。 「左様、あれは苦しいゆえの声ではなく、官能、そう官能なのです。あれであの者たちは満たされているのですから、そっとしておけばよろしい」 「そう……」 「わかりましたか?」  「はい」 「ぶふうっ!」「ぅぶふうっ!」  ホッとする主のかたわら、三人の女官が腹を抱えてしゃがみ込んだ。

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