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第24話 八熾という男⑤

 八熾(やさか)はぼりぼりと頭を掻いた。 「まあいい、始めるぞ。もう少し下がれ」 「はい!」  元気よく返事をしてから蘇芳を振り返り、 「では私は励んで参ります! こちらで待っていて下さいね、にいさま♡」  目を猫のように細めて女官らしくニコッと笑むと、 「◉≧ ∂ ‼︎∈〆︎*☆⊆∃%……ゴフゥッ!!」  蘇芳は血を吐いて膝をついた。   「ヒッ、す、にいさま大丈夫!?」 「大丈夫です……ちょっと興奮して胃の()が破れただけで」 「それ大丈夫でもなくない!? ……私の言い方おかしかった?」 「いえ全然。一生その呼び方でもいいくらいで」 「そ、そう……?」 「おい、ヤル気ねぇんなら帰るぞ」 「いやっハイッ、ただいま!」  イライラとした怒号に弾かれスッ飛んでいくと、八熾はいきなり大きな袋を押しつけてきた。 「あ……?」  袋は儚那の身長よりも高さがあるが、さほどに重くはなかった。 「開けてみろ」  というので開けると、中から現れたのは一張の弓だった。 「これ……?」  弓矢ならば当然、儚那も過去に教わったことがある。正直肩透かしを食らった。 「ただの弓じゃねえ。そいつのカタチをよぅく見てみろ」 「かたち……?」  上から下までをしげしげと見つめる。茶色い木造りの弓は随分と使い込まれた印象だ。  反対にピンと張った弦は真っ白で、手垢の跡がまったくない。これは儚那のために貼り直したものと思われた。そして弓自体がとにかく長かった。 「長さだけじゃねえ。手に持って構えてみろ」  言われるがままに左手で弓を構えてみる。 「あ……?」  なんだこの弓は?   儚那は上から下までを何度も見比べた。  この弓は持ち手を中心にして、上下が著しく非対称だ。上部の長さに対して、下部が極端に短い。こんな弓は今まで見たことがなかった。  いったい、こんな構造でまともに射られるのだろうか?  少なくとも弦の上下の強さがつり合わず、矢に均等な力を加えられないだろうと思われた。  おずおずと師を見上げる。 「不服そうだな。こんなんでヤれんのかと思ったんだろ」 「そ、そんなことは……」 「構わねえよ。そう思うってことは、お前がそれなりに弓を知ってるって証拠だ」 「それじゃあ……?」  困惑して見つめ返すと、八熾は愉しげにニィ、と笑んだ。

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