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第25話 正鵠を射る

「お前が察した通り、こいつで的を射るのは至難の業だ。姿勢に持ち手の角度、弓の傾斜角度を綿密に練り込まねえと矢に伝わる弦の強さを均等にすることはできねえ」  儚那は頷いた。  いかにもこの難解な形の弓を操るとなれば、各所に絶妙な角度を見つけ、保つこと。一二も二にもそれしかないと思われた。 「でもどうしてこの弓を……?」  上下差があるとなれば、ない弓よりも確実に難しい射術になるだろう。  月虹国にもたらされる弓といえば、唐国やモンゴル渡りの物が中心である。  まれにシルクロードを渡ってローマやイスラムの弓が献上されることもあるが、それらはいずれも上下均等であり、かつ弓自体の長さも二尺から四尺がいいところだ。  実際、月虹国の弓隊は唐国の弓術をほとんど丸ごと踏襲していた。  八熾から与えられた弓はゆうに五尺を超えているように見える。いったいどこからもたらされた武具なのだろうか。  八熾が儚那の手から弓を引き取った。 「よく見てみろ。弓の反り返りが部分部分で均等でないのがわかるだろう。上の方が長い分、緩やかに大きなしなりをつけている。これによって下部の短さとつり合い、安定した弓力を生み出すことができる」  まずは見ていろ。  短く言うと、八熾は弓を儚那に突き返し、足元に置いていた巨大な袋からさらに大ぶりの弓を取り出した。  七尺近くもあるかと思われる長大な弓だ。儚那はあんぐりと口を開けた。 「こいつが俺の相棒の鉄弓だ」  鉄製の長弓。  相当に重いはずのそれを羽根のように軽々と構え、相棒と言い切る八熾の腕力に儚那は身震いがした。  黒塗りの、目にも美しい威厳の漂う弓だ。  弦を張る紐には赤や緑の派手な色が使われ、全体の黒地には白の顔料で蔦柄の紋様が施されている。  その弓に金属製と思われる矢を番えると、八熾は離れた的に向けて体の位置をそろえた。  番えた矢から一尺ほど下の弦に右手を掛け、右足を後ろに大きく踏み開く。それから弓の下部を左膝に引き乗せ、右手の指に弦を掛けた。  弓を前に押し開くと同時に的を見定め、ふっ、と弓を高く打ち起こす。  手の内を整え、いちど弓を前傾させる。  右手が耳を越し、さらに後頭を越すほどに強く弦を引くと同時に、弓をぐんと前に押し出した。引き込んだ矢の羽根が八熾の頬骨の下にしっかりと触れる。  胸を開いて引き戻すと、迷いなく矢を放った。  カーンン……!  矢は冴えた弦音(つるね)を立て、まっすぐに的へ向かう。そして当然のように正鵠(せいこく)を射抜いた。  八熾は的を見据えたまま、右肘を後方に伸ばすと胸を開いて残身をとった。  天地左右に伸びた体は自然と一体になり、決然としてただそこにある。  儚那は息をのんだ。  悔しいが、みとれてしまっていた。

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