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第27話 女官視点①

 八熾なる学士の講義が五日置きに行われると聞いた紅玉、木蘭、春麗は、初日の講義からこっち鬼気迫る勢いで訓練に明け暮れる主を、遠巻きに眺めていた。  主は座学以外の時間をすべて素引きに費やして、自室でも中庭でも、時と場所を見つけてはそれを繰り返している。 『いつ何が起きるか分からないから、覚えるなら早い方が良いと思って……』  はにかんで言う主の、『皆を守れるようになりたい』という気持ちは三人にも分かっている。  真剣に弓を構える姿から透けて見える思いにはキュンとならざるを得ない。 「ひい様……かっこいい」 「お顔はあんなにかわいらしいのに」 「ズルいですわ─…」  三人揃ってほう、とため息をつく。 「女性のように扱ってきたけれど」 「そしてそれは今後も変える気はないけれど」 「実は男なのを完全に忘れていたわ」  ビィン、と弦を弾く音に加えて声を殺した呼気だけが静かな部屋に満ちている。 「でもひい様ったら、今朝もちゃんとご飯を召し上がらないで。あれでは体が持たないわよ」 「夜もろくに寝てらっしゃらないわよね」 「ちょ、ちょっと、なにあの手!?」  紅玉の悲鳴を受けて、二人の視線が主の手に集中した。  傷ひとつ無かった華奢な手の皮はあちこち破れて血が滲み、肉が見えている。  血豆が盛り上がり爪の先は割れ、右腕の全体は小刻みに震えていた。  あれではもうまともに力が入っていないだろう。痛いかどうかも分からないかもしれない。  三人はたまらず駆け寄った。 「ひい様!」 「やはり少しお休みになって」  「まずは怪我のお手当てを!」  代わるがわるに訴えると、主は今にも倒れそうにふらりとこちらを向いて、   「だいじょうぶ、心配しないで……」  血の気の失せた白い顔に木蘭色(もくらんじき)の長い髪をくゆらせながら、儚げに微笑んだ。その健気さに思わず壁に寄り集まって、コソコソと悶え合った。  「か……かわいい……」  「放っておけないわっ」 「誰が傷のお手当てをする?」    一同、ううむ……と腕を組む。 「私がやりたいのは山々だけど、一応まあ、応援するとか言っちゃったしねえ?」 「ひい様を教えてる学士って、例の妙な男なのでしょ? 尚のこと……ねえ」 「そうね。ちょっと悔しいけど、ここは譲ってやるとしましょうか」  というわけで、一応味方をしてやっている直属の上司を呼ぶことにした。 「……いらん気を遣いおって」  はたして袖を引っ張っぱられてこられた蘇芳は憮然として青筋を立てたが、いざ主の傷口を見るや目の色を変えた。  そっ、と自らの手に主の手を乗せ、 「これはっ……なんて卑猥な……否、庇護欲をそそる……否、痛ましい手指であることか」  うっとりと眺めると、どことなく嬉しそうに呼吸を乱した。

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