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(R18)第39話 密約の謀②

 八熾はそのまま儚那の首筋に甘噛みをしてきた。蹴り飛ばすのが上等だったが、巨大な野犬に懐かれたようでどうにも憎めない。  あの流れでなぜ興奮されたのか全く分からない。サイとはよほど辛辣な人間なのだろうか。 「なあ儚那」 「な、なに……」 「見せろよ」 「見せ……? なにを」 「はだか」 「……」  理解するまでに時を要した。 「ふ、ふざけるな!」  そんなことをしたら諸事情が文字通り丸裸になる。冗談ではなかった。 「いっ、いくら似ていても、私はそなたのサイという女ではないっ。身代わりというのも大概にしろ」  言いながら少しだけ胸が痛んだ。  妬いたのかと問われそうではないとは答えたが、かと言って自分にこんなことをしておきながら、他の女のことを想われるのはさすがに腹が立つ。  それを嫉妬だと言われればそうかもしれなかった。 「裸云々はその、サイとやらに頼めばよいではないかっ」  たたみかけると八熾は動きを止めて、つと俯いた。 「あいつはもういねえよ。死んだ。ずっと前に」 「えっ……」 「あとサイは女じゃねえ」 「え?」 「つってもそこらの女より綺麗な男だったけどな。俺は気に入ったモンならどっちでも構わねえ。だからお前も胸がないのは気にしなくていいぞ。安心して見せてみろ」  と言われても安心などできない。それはつまり、男だと気づかれても身に迫る危険は変わらないということだ。 「断る!」 「お前な、この俺がここまで譲歩してやってんだぞ。裸がだめならせめて胸くらい見せやがれ」 「む、……」  確かに無節操で有名なアルファ性の、しかも野生児のようなこの男がよくニカ月も耐えているとは思う。そこは評価する。  かつてよほど懐いていたらしいサイという者が、既に亡き人だという事実にも多少の同情の余地はあった。  胸くらいならまあ、いいか……渋々うなずくと、八熾は分かりやすく明るく笑んだ。 「……」  こうまで素直に求められると強く責められない。一瞬、かわいいなどと思ってしまった。  スッと着物の合わせ目から差し込まれた手が、下衣ごと儚那の肩を露わにしていく。  胸など別にどうということがないはずなのに、改めて見られると思うと気恥ずかしい。  右肩の衣も下げられる。上半身をすべて剥き出しにされ、素肌にじかに風が当たった。  脇腹に掌を触れられる。びくりとして目が合った。 「白いな。どこもかしこも」  その手が今度は臍の辺りをやわやわと撫で回す。  日頃から鉄弓を扱うせいか、八熾の指は硬く厚みがあった。その指が儚那の桜色の小さなふくらみをつまみ、きゅうとひねった。親指の先で何度も弾かれ、不本意にも甘い痺れが走る。快感から逃れようと身をよじった。  胸全体を掌に包み込まれて弄ばれる。  一体、こんなつまらない体を触って何が楽しいのだろうかと思ったが、その掌の中で固く尖っていく自身の体もどうかしていた。 「お前と会ったのは、きっと運命だな」 「…………は、……」  馬鹿な、こんな(あだ)な運命などあってたまるものか。儚那は唇をきつく噛んだ。 「ふ、ぁっ……」  けれどこんなふうに唇を重ねられると、腹に入れてきた薬湯など微塵も役に立たない。  儚那の唇から広がる花のような香りが、吐息に混じって互いの肌を湿らせた。  口唇を這っていた八熾の舌が今度は儚那の耳を襲う。入り口をちろちろと舐められると、粟立つ肌が鋭敏に刺激を感じ取って身体中がぞくりと震えた。  胸に色づくわずかなふくらみを同時に爪弾かれると、それだけで狂おしい波にのまれる。口もとに手を握り、ぎゅっと目をつむった。 「……ぁああっ……!」  下肢が急激に熱を帯び、目の前に白い霧がかかっていく。  あふれ出す粘膜から立ちのぼる芳香がいっそう強くなる。  まるで甘雨の中で咲き乱れる沈丁花の花芯が、誘い込まれた虫を離さじと罠張るような、ねっとりと絡みつく芳しさだ。  八熾は酩酊したように頭を押さえた。くらり、よろめきながら儚那の薄い胸に顔を埋める。 「……とっととお役御免になれよ、お前──」           サァァ、サァァ……降り始めた柔らかな糸雨が、密約の森を鈍色(にびいろ)に濡らした。

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