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第45話 離宮へ⑥
皆でひとしきり姉に寄り添った後に、軟玉の首飾りを姉への贈り物に持たせてきたことを儚那は思い出した。
多少の慰めにはなろうかと月の間を一歩出たところで、お待ちかねだった珊瑚姉弟にまずは捕まった。
「見てくださいひい様! この子たち、僕が育てたんですよ!」
えっへん、胸を張る瑚の手には黒い仔猫が一匹ぶら下がっていた。
「違います、瑚は何もしていないの。森の中で親猫に捨てられていたのを拾ってきただけ。育てたのは私とお母さまなのです」
キュッと眉を尖らせる珊の手には、やはり同じくらいの大きさの白い仔猫がぶら下がっている。
そんな姉弟の様子に女官たちと笑いながら、小さな猫たちを手に取った。白黒の兄弟の仔猫はまだ儚那の両掌に収まるほどの大きさで、可愛いと思う以上に、心配でハラハラする。
「まあ、それは私が初めて貴方を抱っこした時の感想と一緒だわ」
かすれ声で笑う姉には、少し照れた。
「そろそろ夕餉の支度にかからなくては。ひい様、何か食べたい物はございますか?」
蓮玉に問われ、
「いいえ、今日は私がみんなのために作りたいの」
「まあ、それでは皆の気が済みませぬ……ならば、ひい様もご一緒に、みんなで作りましょうか」
蓮玉の提案に、わっと歓声が上がった。
離宮の厨房には王宮から届く食料に加えて、森で採れた新鮮な果物が溢れている。
蓮玉の指揮のもと、皆で色とりどりの包子 を蒸した。中身は、豚肉と塩漬けの筍、干し海老に青菜、鶏肉と百合根と山椒、それから子供たちの要望を得て、柑橘に蜂蜜を混た物の四種類ある。
大鍋にぐつぐつと匂い立つのは海鮮湯だ。帆立ときくらげの乾物と、海老の頭で贅沢に取った出汁の中に、むき海老と、薄く切ったアワビを煮立てて仕上げに溶き卵を流し入れる。
蓮玉の得意料理は、厚く切った豚肉に甘 しゃ糖と生姜をふんだんに加えて甘辛く煮たものだ。仕上げにそえられた塩茹での青菜が色鮮やかに大皿を彩る。
また別の鍋には、胃に優しい薬膳の粥がたっぷりと仕上がった。
それらを肴にして、上物の紹興酒にざらめを溶かし込む。そうして皆で杯を傾け、笑い語らい合えば、悲しみなどどこかへ吹き飛んでいくようだ。
「明日は離宮の浜辺で貝を探すのはいかがでしょう?」
「いいわね! それはぜひ、ひい様と蘇芳様のお二人で行かれたらいいわ」
「そうね! それがいい」
女官たちが勝手に盛り上がる。
「どうして? みんなで行ったら楽しいのに……」
「だめだめ」「ダメです!」
譲らないので、明日は何となくそんな予定になってしまった。
杯を幾つつがれてもケロリとしている蓮玉や蘇芳に対して、酒に弱い儚那はすぐに眠気に襲われる。
子猫たちのナー、ナーと頼りない鳴き声を子守唄にしながら、儚那は饗宴の最中にも幸福な微睡 の中へ落ちていった。
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