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第49話 王族の醜聞①
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食べかすが沈殿した後宮の床の上に、ぶらぶらとぶら下がる女たちの白い足、足、足。
甘ったるい菓子の香りが充満した後宮の一室で、だらけ切った女官たちが茶をすすり菓子を食んでいた。
「暇ねえ──…」
「ずぅっと離宮にいたかったわぁ─」
「私もぉ……」
ハァー、と一同ため息をつく。
「あれからひと月も経ったのに、あの二人結局ぜんぜん進んでないみたいだし?」
紅玉が頬杖をつけば、
「つまらないわねぇ。ねえ春麗、なんか面白い話ない? 女官出身の親戚が多いあんたの家なら、話題のひとつや二つあるんじゃないの?」
眠気まなこの木蘭があくびをしながら春麗をせっつく。すると春麗は、ふいに真剣な顔をした。
「……あるわよ」
えっ、と後の二人が刮目する。
「ただし、これはほんっとうに極秘の話よ?
誰かに聞かれたら本気でまずいわよ。あんたたち、それでも聞く勇気はある?」
「あるある! そういうのが聞きたいんだって」
「教えてよ、誰にも言わないからぁ!」
二人が目を輝かせた。
「それじゃあ、話すけど……」
辺りをきょろきょろ見渡してから、春麗は声をひそめた。
「むかしむかし──」
春麗がおもむろに語り始めた内容とはこうだった。
昔、去る王族に美しい妾がいた。しかし王族は身分の高い正室を迎えると、子を宿したばかりの妾を捨て、後宮から追い出してしまった。
妾は自らの郷に帰って子を生んだ。蔡桜 と名付けられたその子は舞の名手に育ったが、郷を離れて招かれた席で現王弟に見初められ、強引に王宮で囲われた。
だが蔡桜には郷に残した恋人がいた。王弟の寝所で自分の体を傷つけ恋人に操を立てた蔡桜は、そこで自らの素性を明かしてしまう。
母を捨て、後に自分を囲った王族を怨み嘲った蔡桜は、これを国中に吹聴してやると王弟を脅かす。
すると王族の醜聞を恐れた王弟はその場で蔡桜を惨殺、その後処理を、側に控えていた自分付きの女官たちにあたらせた。
「そしてその女官のうちの一人が、私のいとこの夏来 ってわけ。夏来は処理に関わった罪の意識で、だんだんと衰弱していったわ。それから何年か経って、夏来は死ぬ間際に人払いをして、私にこの話を語ったの。でもね──」
ごく……紅玉と木蘭が固唾を飲んだ。
「蔡桜は瀕死になったけれど生き永らえた。とどめを刺せなかった女官たちの手によって、密かに幽閉されている。これは王弟自身すら知らないことだと──自分はその食事を運んだことがある、って──最後に私にそう打ち明けて、夏来は息を引き取ったのよ」
語り終えると、しん……と部屋は静まり返った。
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