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第50話 王族の醜聞②

 青ざめた紅玉が震え声で、 「まっ……てそれ、本気でやばい話じゃないのっ……!」  木蘭が口を押さえてこくこくと頷く。 「だからそう言ってるじゃない……」  ふと人の気配を得た気がして、春麗は扉を注視した。 「どうかしたの?」  泣きそうな声で木蘭が問う。 「……いま誰かいた気がしたんだけど、気のせいだったみたい」 「ねえちょっと、私怖いんだけど!」  紅玉が春麗の袖をつかんだ。 「私だって怖かったわよ! ずっと一人で、誰にも言えずに今まで……っ!」 「しゅ、春麗……」   頭を抱えて怯える友に、木蘭がおろおろと手を伸べる。紅玉が、あれ? と口を開けた。 「ちょっと待って。ねえさっき、蔡桜が連れられたのは王宮って言った? なんで後宮じゃなかったのよ」 「確かに。というか、後宮だったらもう少し噂になってるはずよね? どうして? 春麗」 「……蔡桜が後宮に入らなかったのは……」  うんうん。二人が身を乗り出した。 「蔡桜が、女ではなかったからよ……」  えっ? 不意を打たれて二人の目が丸くなる。 「つまり現王弟の羅丹様は──」 「お前たちそこで何をしている」  唐突に低い声が響いた。 「ひっ、ひいいっ!」  三人が悲鳴を上げた、と同時に腰を抜かして椅子から転げ落ち、わたわたと床を張ったところでぬっと見下ろしてくる男の顔がやっと見えた。春麗が喉を引きつらせ、 「すっ、すすすっす、蘇芳さまぁ!? なんでこんな所にいるんですかぁ!」 「なんで……と言われても、ここが私の部屋だからだが……?」 「えっ」「あっ」「そっ……」  そういえば……。  三人、ぽかんと顔を見合わせる。 「ねぇ蘇芳さまぁ! 何があっても私たちのこと、守って下さいよねぇ!」  上司の脚にしがみつきおいおいと泣く女たちを見下ろしながら、 「いいかげん私の部屋にも鍵が欲しいものだ。人の留守中に上がり込んで飲み食いするとは、全く……。言いたいことはいろいろあるのだが、今日のところは勘弁してやる」  それだけいうと、ふむ、と思案顔をした。

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