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#スイーツ男子のお相手は色彩鮮やかで繊細なマカロンのような彼⑤
「わかった!じゃスマホ貸して!」
『えっ、、何でですか?』
「単純に連絡先交換だよ。そんなに構えないでよ、僕ってそんなに怖いかなぁ?」
彼の容姿で怖いんじゃなくて言ってる事ややってる事が破天荒で怖いんだって、、って当本人は気付いてないんだろうな。
鞄からスマホを出して彼に渡すとメッセージアプリを開いて自分のIDを打ち込んだ。
「OK!これでいつでも連絡して」
『……考えますけど、、期待はしないで下さい。僕そうゆう配信とか……人前に出るの苦手なので』
そう言って差し出されたスマホを持つと彼の力が強くなり強く握って離さない。顔はまたしても真剣な顔になっている。
『ちょっ、あのっ……スマホ』
「そうかな?俺の見立てだとそうは見えないけどな」
『、、えっ?』
スマホを持ったまま押し倒され、仰向けになった僕の顔を見下ろして肘で自分の体重を支えいる彼。二人の重みでシングルサイズのベッドはキシキシと音をたてた。
『っ、、何!?』
「一見草食系にみせて見せてホントはとんでもない肉食系。人に注目されたり目立つのが苦手とか言っておいて本当は自分を周りに認めて欲しい承認欲求のかたまり。ってところかなぁ」
『、なっ何言ってるんですか?勝手に、、違います!ちょっと退いて下さい、、っ!』
強い力で腕を掴まれスマホがするんっと手から離れて床に落ちた。
「ホントかな?僕にはまだ心の奥底に秘めた何かを出せずにいるように見えるよ。ねぇ本当の君はどこ?」
そんなおとぎ話のようなセリフと彼の澄んだ濡れた瞳に吸い込まれそうになって言葉を失った。その体制のまま過ぎた3秒間は身体中に稲妻が走ったような初めての感覚だった。
『、、あっ……あの、、』
「なーんて。ちょっとやり過ぎた、ごめん」
彼はムクッと身体を起こしてシャツの乱れを直し、落ちたスマホを拾って勉強机に置いた。
僕はゆっくり上半身だけ起こしてまだ身体中の衝撃にボーっとしている。
「まー何か色々言ったけど深く考えないで。それとバイトは代ちゃんと払うからさ」
『、、、バイト代ですか?』
「うん。だから気軽にアルバイトする感覚でさ。それじゃ連絡待ってるから!またね、滝川暖くん♡」
そのまま部屋を出て行った彼の背中をただ見つめている。嵐が去って静寂に包まれた部屋には階段を降りる音に"お邪魔しましたぁ"と母親に挨拶する彼の明るい声が聞こえて終わった。
『はぁ……もう何が何だか分かんないよ、、』
強く握られた手首にまだ少し残る痛みでもない不快感でもないこの感触の名前を知る人がいたら問いたい。19歳の陰キャ浪人生に分かるように誰か教えて欲しい。
『……どうしよう、、連絡待ってるって言われても……あっ、スマホ!スマホどこ!?』
ぶんぶんと頭を振って見回して探す。ベッドから勉強机にスマホの側面が見えて立ち上がって手に取る。そしてすぐ横に置かれたゴールドの正方形の紙袋に気付いた。
『ん?、、 Rencontre !?嘘でしょ!?何でここに?』
紙袋に書かれた単語。スイーツ好きに知らない人はいない有名店の名前だ。ずっと前から食べたいと思っていたが平日数時間の営業ですぐに売り切れなかなか食べられない人気店。
"お近ずきのしるしに 樫井大我"とお菓子の箱に直接ペンでそう書いてあった。
『何で律儀にフルネームなの?それと"ず"じゃなくて"づ"だし。ふふっ。なんか……悪い人では無さそう』
箱を開けるといつも雑誌やSNSで見ていた色の違うマカロンが5つ入っていた。イメージより大きくてはみ出そうなクリームと丸くてふっくらしたフォルムに胸がときめいた。
端っこにあるピンク色のマカロンを手にして前歯で噛んだ。口の中に広がったストロベリークリームとサクサクと生地はこんな状況でさえ幸福感をもたらす。
『あー!やっぱり最高!幸せすぎる♡』
そう言えばなぜか自然にピンク色のマカロンに手を伸ばしてしまったけど、もしかして彼の髪色にインスパイアされて、、なんてちょっと考え過ぎかな。だけど組み敷かれた時の光景が頭から離れなくてまだ夢うつつの状態だ。
きっと今の僕はマカロンより甘い彼の蜜にきっと惹かれて始めている。
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