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#スイーツ男子のお相手は色彩鮮やかで繊細なマカロンのような彼⑩

 紙袋から箱を取り出すと5個入りのマカロンの箱の中は残り1個になっていた。何となくすぐ食べ切るのがもったいなくて残しておいたもの。  いい加減食べないとせっかくの美味しさが損なわれてしまうから口内全体に甘さが広がるとすぐに幸福感に変わる。  『あ〜やっぱりこれに勝るものはない♡』    もぐもぐさせながら紙袋に手を入れるとあのメモが残っていて読み直すと口の動きが鈍くなる。  「………返事しなきゃ」  人間には分相応(ぶんそうおう)の生活と言うものがある。調子に乗って"彼氏になる"なんて軽々しくしようものなら痛い目に合うと今日身を持って知ったところだ。彼みたいな人のパートナーなんか務まる訳ない。  椅子に座りスマホを出して彼のメッセージ画面開く。まだ真っさらな画面に初めてのメッセージをゆっくりと考えながら打ち込み始めた。  『こんにちは?こんばんは?、、この間はどうも?うーん、、何て始めればー…』  考えれば考えるほど進まない指。背もたれに体重をかけて天井を見た。 彼がこの部屋に来た時、押し倒されて彼越しに見た天井だ。その時ふと思い出した彼が言った言葉。  "本当は自分を周りに認めて欲しい承認欲求のかたまり" その言葉と同時にあの時の彼の宝石のような綺麗な目、ツンと高い鼻、赤く潤んだ唇が脳裏に蘇った。あの時掴まれた手の握力もまだ忘れていない、、なぜか気になる"樫井 大我"という人間を。  でもそれとこれは話が別。だいたい勉強だけで手いっぱいで、そんな暇なんてない。もう会う事もないんだからビシッと言わなきゃ。 万を辞してメッセージをを軽快に打ち込み始めた。  "ご無沙汰しております。先日の申し出の件ですが考慮した結果、誠に遺憾ではありますが、希望には添えない結論に至りました事を報告致します。それでは貴方様の益々のご発展をお祈り申し上げます。さようなら"  『これでっ、よしっと!!』 送信ボタンを押してバフっとベッドに倒れ込んだ。もちろんすぐ既読にはならずなぜか返信に緊張しなが送った分を読み直す。  『……ちょっと…文章硬すぎるかな?、、まあいっか!だって年上の親しくない相手に送るんだからこれぐらいがちょうど良いはず!』  とにかくこれ以上面倒な事には巻き込まれたくない。僕はただ平和に過ごしたいだけ、平凡が一番だなんだ。      翌日、家族は陽のサッカーの試合の応援に朝早くから出掛けて行った。 明希が来るまで部屋を片付けて掃除機をかける。掃除は日常的にやってるからそう時間はかけずに終わった。  最後に机の上のあのマカロンな紙袋に目をやる。とりあえずなかなか買えないお店のだし……取っておこうとキョロキョロと見渡して机の横のコートハンガーの足元に置いた。  すると約束の時間通りに家のチャイムがなって鍵を開けると明希が顔を出した。  「よっ!来たで」  『どうぞ上がって。今日誰もいないから静かに勉強出来るよ』  「そうなん?なんや残念やな。おばさんにも陽くんにも久しぶりに会いたかったんに〜。あっ猫はまだ生きとるん?』  『ちょっと勝手に殺さないでくれる?久しぶりって1ヶ月前に来てるんだから、まだまだ元気ですー!』  『冗談やって!関西ジョーク!』  何だかテンション高く機嫌がいい明希は重そうな大きなリュックを背負って部屋に入る。  『何いっぱい持って来たの?』  「バイトの先輩から参考書いっぱい貰うたんや。浪人生やっとった時のやつ使わへんからって、暖にもいくつか分けようと思うて」  『ありがとう。助かる!』  「それと暖が観たいって言っとった映画のDVD何本か借りて来たで。疲れたら息抜きに見るか?」  『本当に!?ありがとう、観るっ!』  「よっしゃ。ほな始めるか!」

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