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#スイーツ男子のお仕事はチョコミントアイスの冷たさと刺激と賛否の交わり
「ハムスターかっ!」
『、、ん?』
昼ご飯のサンドイッチを前歯で小さく噛みながら口に運ぶ暖に今日も明希のツッコミが飛んでくる。いつも食べるスピードは遅いが、今日はいつもに増して食べ物が減らない暖に何かを感じた明希といつみ。
「ずっと食ってるやん。まだハムスターの方が早いわ!何やねん今度は!?聞いたるから言うてみ?」
「あ〜それか口内炎ね!?」
『、、ご心配はありがたいけど別に悩みもないし口内炎でもない』
「ふーん、あっ!そういえば暖さ、少し前にアルバイトしようかなぁって話してたでしょ?なんか私の友達がバイトしてる場所人足りないんだって」
『バイト?あーそれならもう大丈夫。バイトなら決まっ、、じゃなくてー…しばらくやる余裕はないかなって。わざわざ声かけてくれたのにごめんね』
「そっか、わかった!」
大我との恋人役宣言から数日が経ち僕はいつも通りの日常を過ごしている。ふと我に返ってあの発言は正解だったのかと思うこともしばしばあるけど、今のとこ世界は何も変わっていない。
そして"学校終わりでここへ来て"と昨夜地図を送られた。それはどこかの家のようで、もしかして今まで見ていたあの動画を撮影していた場所かと思うと現実味を帯びて、授業が1コマ終わるたびにソワソワしてくる。
そんな風に過ごす1日はあっという間に時間が過ぎ、5限授業が終わったその瞬間ピコッとスマホの画面表示に"大我"名前は現れた。猫のかわいいスタンプ1つのみで文章はない。
文字はなくても言わんとしていることが伝わりどう返信するか迷っていた。
「疲れたーー」
いつみが声を上げて明希と話し始めた声が聞こえる。僕はスマホ画面を見つめてじっと悩んでいる。フイっとスマホを覗き込まれ驚いた拍子にスマホをいつみの顔ぶつけてしまった。
「わっっ!!ちょっとー痛いじゃん。そんなに驚かなくても」
『ごめん!大丈夫!?』
「乙女の顔を傷つけたお詫びにご飯ー…」
『あっ、今日用事あって急ぎだから先帰るね!じゃ明日っ!』
「えっ、あっ、ちょっ!暖!」
「……何なの?また気になるスイーツのお店でも見つけたのかな?」
「さあ?わからへん」
予備校からいくつか電車を乗り換えて初めて来た駅はいくつもの電車が乗り入れする大きな駅。早速、方向音痴を遺憾なく発揮し地図のアプリの向きを変えながらのろのろ歩く。
しばらくしてアプリが目的地到着を伝えた。目の前にあるのは、例えるとヨーロッパの片田舎に昔からあるような二階建てアパート。白い壁に蔦 が生え茂って3分の1が緑色に染まり古い木製窓にも蔦がかかっている。
建物自体は大きいが、東京の繁華街もほど近いこの場所に立つ建物としては少し浮いている。
『えっ、、ここっぽいけど……』
地図と建物を交互に見ながら間違いないことを確認する。念のため周りもぐるっと1周しそれでもやっぱりマークはここ表している。
そして窓がキーっと音を立てて開くと間違いないあの綺麗な顔が現れて、下にいる僕に向かって叫んだ
「暖ーーっ!遅いよー!待ちくたびれて寝ちゃうところだった」
『あっ、、ごめんなさい』
「目の前の階段上ってきて!」
いい風に言えばレトロ、言葉を選ばないで言えば古くてちょっと不気味。勝手に頭の中で思い描いていたのは玄関にはコンシェルジュがいて厳戒の警備がある高層マンションの上階だったんだけど。
『おじゃまします、、』
「ねぇ、どうしてそんなに硬いの?」
『いや、、僕基本的に人前に出るの苦手ですし、何万人が見てるような配信に出るなんて改めて無謀なんじゃないかって思いまして、、』
「しーっ!敬語禁止って約束でしょ」
『そうでした、、!じゃなくてー…そうだね』
外観には驚いたが、中はそれほど古い感じはなかった。入ってまず一番に思ったのが物が少ないこと。ここが映像で見ていたあの場所なんだろうか、、
『ところで何かー…すごい家だね』
「あーここ?どうやらバブル期にパリにあるよなアパートってコンセプトで建てられて、当時はお店としてここでカフェや雑貨を売ってたんだって」
『バブル?それじゃ30年、いやもっと前?』
「そっ。だからもうだいぶ古いわけ。どう?気に入った?これからここが撮影のメインなるから来てもらうことになるけどよろしくね!」
「うん」
『早速だけど電話で話したアレには異論ないよね?』
そう、大我と事前にいくつか決め事をした。敬語禁止もそのうちの一つだが、それ以外にもいくつかある。撮影を円滑 に進めるため最低限のルールやマナーといったところか。
"最低週に一度は動画をアップする"
"暖は顔出ししない"
"あくまで疑似カップルだがカメラの前では本物の恋人のように接する"
"体の関係は持たない"
"次の相手が見つかるまでの期間限定の関係"
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