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#スイーツ男子のお仕事はチョコミントアイスの冷たさと刺激と賛否の交わり⑪

 『ただいまー…』  家の電気がついていないことに少し疑問に思いながら玄関でぼそっと言った暖。夜8時過ぎに家に誰も居ない事なんて珍しい。 廊下の電気をパチンとつけて、居間や台所や両親の部屋を覗くが誰もいないし愛猫さえも出迎えてくれない。  仕方なく2階に上がり自分の部屋に入る。明希とカフェで長居している最中にスマホの充電はゼロになり真っ黒の画面。  とりあえずスマホを充電器に残量が増えるまで置いておく。鞄の中からバサバサと教科書やらプリントを出して整理する。  はらりと床に落ちた紙は朝のホームルームで配られた夏季講習の申込書。さっきまでカフェで明希と話していた、夏休み期間いつもの授業とは別に個人のレベルに合わせて苦手教科を集中して勉強できる機会。受験生にとって夏は勝負の時期だけ受ける生徒が大半だ。  暖の成績から見てももちろん受けて当然だが、金額的なこともあって一人では判断は出来ない。とりあえず親に相談だなっと机の上に置いてベッドに座った。  ふぅ、と一息つくとパンケーキの柔らかさとハニーシロップの甘さがまだ口の中に残っていた。何だか突然頭の中でレビューを書きたくなりノートに文字は残さないで記憶だけに残した。 そうすることで精神安定剤の代わりになる。  ふと目をやるとスマホに色が戻って明るくなった。覗き込むと着信履歴が何個も連なって確認すると母親からだった。 何かあったんだとすぐに折り返しかけるとすぐに母親の声が飛んできた。    「暖!あーやっと連絡取れた!」  『ごめん。しばらく充電切れてて、どうしたの?何かあった?』  「あー…うん、今病院なのよ。」  『病院?どこか悪いの!?』  「私じゃなくて、陽。部活中にケガしてね、すぐ病院行ったら骨折って診断で今日から入院になったから。お父さんもさっき仕事終わりで今こっち来たから帰るの遅くなるけど、ご飯冷蔵庫にあるから先に食べて」  『えっ!?それはいいけどー…陽、大丈夫なの?』  「とりあえずは大丈夫。ケガもだけど、、精神的に落ちてる。ほら大事な試合控えてたから出られないのがショックみたいで」  『わかった。陽によろしく、、って僕が言っても気に触るだけかな』  「そんなことないわよ。それじゃ家よろしくね」  まさかの陽の入院に電話を切った後もじっとスマホを見つめていた。夏季講習の事なんてますます言い辛くなった。入院となればお金もかかる。こんなタイミング、神様に自分でどうにか出来るだろと試されているようだ。  だけど今の僕には収入源がある。 しかも夏季講習の授業料くらい数回の配信で稼げてしまうんだ。  そういえば大我にも動画公開メッセージの返信をしてなくて結構な時間が経っている。 とりあえず元気めなスタンプ1つ返信してみるとすぐにメッセージが返ってきた。 "返信ないから心配した。観た?" "観たよ。顔は隠しててもやっぱり変な感じがする。慣れるまで時間がかかるかな" シンプルに動画の感想だけ送った、コメント欄には触れずに。当たり前の意見を受け入れよう。これは自分ではなく別人なんだから。 これはすぐになくなる単なるサブアカなんだ。  "明後日次の動画撮影しよう。また家これる?"  "いいよ、行く"  "それならまたこの間と同じ時間に待ってる"  この時点で動画再生数が50万を超えていた。 賛否はあったにしろ関心がある事に間違いはなくてその中心に"NATSU"と言う人物がいる事は事実だ。

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