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#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て

 「今日は俺たちの同棲部屋を紹介しようかな」 ニ回目の配信は、部屋のルームツアーと題して大我が少し部屋を模様替えして二人の同棲部屋を作った。  もちろんこれは同棲と言う設定。実際は同棲なんてしていないし、この部屋に来るのもニ度目。今日は固定カメラではなく、ハンディカメラで部屋内を歩きながらレポーターのように各部屋の解説をしている。  マクスに帽子のお決まりスタイルで大我の一歩後ろを引っ付いて歩く暖。カメラは一度も止める事なくひたすら回し続けるがさすが失敗しない男、大我はNGなしでジョークなんかも交えつつ順調に撮影は進む。  シャワールームまで惜しげもなく撮影し、焦らすように腹筋を見せようとするもんだから僕は反射的に手を掴んでシャツを下ろした。  『ちょっ、だめだよ!』  「あ〜彼氏がヤキモチ妬いちゃうから裸はお預けだって。次の部屋に行こうか」    大我のトーク力には脱帽だ。よく想像だけでここまで喋ってで演出できるなと相当な役者魂に感心してる。あまり生活感を感じない部屋ばかりだが視聴者は信じているのだろうか。 そして最後の部屋の紹介はお待ちかねであろう寝室だ。  「そしてここが寝室!夜はこのベッドで2人で寝てる。NATSUが右で俺が左!なんとなく自分の居心地のいいあるじゃん、それが俺らはそういう位置なんだよねっ」  『そ、そう!そんな感じっ、、』  目の前にはグレー色に統一された布団に枕。あまり使用感がなく真新しく見える。そう言えば今までの配信に映るベッドはこれでは無かった。  さすが元彼との面影は完全に消し去る用意周到さ。それは視聴者への配慮かもしくは僕へか、、  「それじゃあ、特別にちょっとだけ夜を再現して寝てみようかな〜」  『はっ!?再現って、、ちょっそれはっ』  ニコッと大我は笑み浮かべて目配せをする。 もちろん実際に寝た事はないし寝てるフリだとわかってるけど視聴者を楽しませる為にはこうゆうのも必要?  『えっ、、ああうんー…そうだね』  僕は言われた通りベッドに上がって右側にのろのろと仰向けになった。初めて寝るこのベッドは僕の部屋の普段寝ているベッドの感覚とは全く違って、超高品質なマットレスの感覚がして気持ち良い。そんなリラックスモードになっていると、隣に大きな身体が並んで肩が当たって2人の顔の上にカメラを持ち上げた。  「こんな感じで並んでるけど、俺は寝相が悪いから気付いたらこんな風にNATSUに抱きついて寝ていることが多いよ」  そう言って左側にいた大我が僕の体を包むように横から抱きしめた。キシっとベッドの音が鳴って左半身に大我の身体が当たって、ちょうどいい重さを胸の辺りに感じる。マスク越しからでも分かるフローラルの香りが鼻を支配して身体の緊張感が更に解されていく。  そのまま大我は数十秒何も喋らずただ抱きしめたまま、僕もただじっとしていた。片方の手に持ったカメラから赤いRECマークが二人の世界では無いことを物語る。 そう、この先には何百万人の目がある事を忘れてはならない。  「あぁごめん!つい寝てしまうとこだった。それじゃあ今日はここまでっ。また次の動画でバイバイ」  そしてランプが消えてカメラはベッドの上に置かれた。撮影が終わっても抱きしめ手を外さない大我の顔をチラッと見ると目が合った。  「お疲れ様、大丈夫?」  『……うん何とか』  「見てる人達は9割が僕たちがこういうところを求めてる人ばかりだから、つい。ごめん許可も得ないで勝手にして。職業病みたいなところかな」  『……別にっ、ちょっと驚いただけで!こ、これくらいは平気だよっ……」  でも何故か不思議と不快な気持ちなんてものはなくて、少し身を委ねてしまいそうになった自分がいた。以前の本当の彼氏が相手なら、気持ちのまま身体が動くまま撮影出来ていてそんなリアルな二人を視聴者も楽しんで観てたんだろうな。  『次からは事前に相談するね』  「ねぇ大我っ!あのっ、そうゆうのあまり気にしなくていいよ!」

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