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#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て⑥

 一つのスマホを二人で見ながら話している彼女達の後ろで顔を伏せがちにしながらも意識は前に向けていた。  「あっバス来たよ」  時間ぴったりにバスが到着した。前の彼女達に続いて乗り込んだ車内は、ポツポツと間隔が空けて数人座っているだけ。花の蜜に吸い寄せられる蜂のようにただ何も考えず彼女達を追うように真後ろに座った。  少し座高の高いシートから彼女達の持っているスマホがよく見える。他人のスマホを覗き見るなんて良くない事はわかってる。 だけど自分への評価がどうしても気になって、花を見つけた蜂は蜜を吸うまで離れられないんだ。  「この映画私も観たかったやつ!二人で一緒に恋愛映画観に行くなんて可愛い♡」  数日前に公開した動画で初めて外へ出た。大我のバイクに乗って映画を見に行く、ただそれだけの動画。 それでもNATSUという人格で初めて人前に出て、映画館で大我に気付いたファンに"NATSUさんですか?"なんて声を掛けられたりもして。  そして撮影する度に手を繋いだり肩を組んだり肌に触れる事も慣れてきた。見てる人達に楽しんで貰うにはどうしたらいいかなんて、一丁前に配信者ぶって思うようにもなった。  「でもさ顔やっぱ気になるよね〜」  「何で隠してるんだろ」  「実は超ブサイクだったりしてっ!」  「そんなわけないよ!大我が選んだ相手だよーそれなりでしょ。こう見えてやり手の若手経営者とか〜あっ実は芸能人とか!」  聞けば聞くほど恥ずかしくなってくる。彼女達の言う選択肢には何一つ、かすりもしなくて期待に添えなくて申し訳ないけどブサイクってとこは正解だったかな。  そうこうしてるうちにバスは病院へ近づいて、知らない景色に変わっていく。"次止まります"のアナウンスと同時に赤く点いたボタンは彼女達が押した。  「マコトとは結構キスとかしてたけどNATSUとはそうゆうのしないね。イチャイチャ度が少ないのは付き合いたてだからかな?」  「意外とマコトとあんな別れ方したのまだ引き摺ってるとかかもよ。大我は浮気されてた側だし、NATSUとの関係も腹いせの見せつける為の一時的な遊び的なものだったりして?」  最後にそんな会話をしてバスを降りて行った彼女達。ヒヤヒヤする必要もないくらい全く気付かれる事はなかったが、本人を見てガッカリさせずに済んだと思えば結果オーライだ。  それにしても鋭い着眼点はさすがとしかいいようがない。大我の心の奥底の本心まではわからないけれど、(あなが)ち間違ってもいない。  結局は大我が隣にいないと自分には何の価値もない事はよく分かった。そしてバスから病院の名前がアナウンスされて乗客のほとんどがここで降り、大きな荷物を再び抱えてバス停からすぐの目的地へ歩いた。  『、、中央総合病院ー…おっきいなぁ。病室辿り着けるかな、、』  世の中に無害で平凡な僕みたいな人間はなぜか身体だけは丈夫で、病院なんて滅多に来る事もない。とにかく大きな病院の建物を見上げて上部に大きく書かれた病院名を読んで中に入る。  『ええっと、、病棟A……違う、、病棟B……っだったかな?直進して右のエレベーターで3階だ』  院内は多くの人があちらこちら行き交っている。壁にデカデカと掲示された院内施設マップを見つけ指でたどりながら事前に聞いていた病棟へ急いだ。

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