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#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て⑧

  熱くなったシートとフレームは夜になっても冷めないまま、自宅のいつものスペースに愛車のバイクを停めた。ヘルメットを脱いでピンク色の髪をかき上げ"TAIGA"と名前の入ったプレートが揺れるキーを抜いて少し汗ばんだ首筋に手を当てた。  「そのキーホルダーまだ使ってくれてんだな」  突然後ろから声出して振り返った大我の視線の先には石段に座り電子タバコを煙を吐いたマコトの姿があった。  「……マコト、、ここで何してー…」  「ごめん大我。来るなって言われてたのに」  そう言いながら電子タバコをポケットに入れ大我に近づいていくマコト。あの一件以来、会うことも連絡さえ避けていた大我。久しぶりに会った元彼があの後、どのような生活をしているのか知らない。無精髭に伸びた髪はボサボサで痩せたと言うより窶れて見えたが、マコトに対する同情なんてこれっぽっちもない。  「何しに来た?、、にしても酷い姿だな」  「んー突然無職になっちゃったからね」  「それは自業自得。いいから帰れ」  冷たい視線をマコトに向け鞄を肩に掛け家に入ろうとする大我の腕を引いて引き寄せたマコト。肩にかけたカバンの紐がずり落ちてつながった2人の肌に重くのしかかる。  「ちょっと待てよ、少しぐらい話聞いてくれてもいいだろっ!電話も拒否るし」  「何を話すことがある?もう俺達の関係は終わった、それだけ」  「終わってねーよ!俺は、、今でもお前の事がー…」  「それ以上言うな。いいから帰ってくれ、もう来るなよ」  言葉を遮り手を振り払って、鞄を再び肩にかけた大我は睨みつけるようにマコトを見て家に入ろうと歩き出す。マコトはその背中を悲しみと悔しさを混ぜた表情で拳を力が入る。  「じゃあ何なんだよっ、あいつは!あのNATSUってやつ。いつどこで出会ったやつなんだよっ」  その名前を聞いて大我は立ち止まらずにはいられなかった。当然マコトが今の二人の動画を見ているとは思っていたが、やはり気になるのは今まで自身がいた位置に突然現れた暖の事だろう。  「話す理由はない」  「ッ、、大我だって俺の知らない間にいろんな奴と会ってたんだろ!!?NATSUって奴ともホントは俺と配信してた時から関係あったんじゃねのかよ!?そいつとはもうヤッたのかよっ!?」  「やめろよ!外で何を大きい声で言ってんだよっ」  興奮状態で責め立てるように声を荒らげるマコト。自分の事だけならまだしも暖の事に触れられて品の無い言葉を投げた事に、いつも温厚な大我もさすがに強い口調で言い返す。  「自分から配信止めるような問題おこしておいてよく言うよ!」  「だからそれは説明しただろ!?あの女はただクラブであの日知り合っただけで何も無いって!」  マコトは必死に説明を始める。あの日友人とクラブに行き声をかけてきた女と朝まで飲んで、酔いも覚めないまま女がお腹空いたと手を引かれ連れていかれたがまさにあの店だった。 単なるよくあるナンパの一夜限りの関係だと。  それを聞いても大我は表情を全く変えず、ため息を一つ溢してゆっくりマコトに近づいた。  「……別に写真撮られた女がどうこう言ってるんじゃない。元はと言えばマコトがルールを破ったのを忘れたのか?」  「それはー…そうだけど!俺は自分の気持ちを素直に行っただけだ。その気持ちは今も変わらねえ」  「だからだよ。だからもう一緒にいられないって事だよ。それが配信のルールだったろ」  「じゃNATSUってやつは、、?」  「あくまでビジネス。それ以上の感情はいらない……あの子も同じだよ。以上話は終わり」  きっぱりと言い放った大我の言葉にただ立ちつくして小さくなっていく背中を見ているしか出来なないマコト。 すぐに明かりがついた大我の家の窓からこぼれる灯りは2人で過ごした時間を思い出してしまい辛く心が痛む。そしてその場をトボトボと力なく去って行ったマコト。  二人の間の溝は果てしなく深くになり、それは互いに決めたルールによって修復不可能になっていた。  偽の関係にはルールがつきもの。そのルールが破られる時、そこにある厄介なモノは決まって同じ。それは"愛する"という事それだけ。

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