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#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て⑨

 世間は、夏休みと言う若者が浮き足立つ時期に突入した。制服姿の若者を電車や街で見かけなくなり世の大学生も二ヶ月と言う長い休みを満喫する。  「予備校って夏休みないんだ?」  大我はカメラのセッティングをしながら視線を向けた先には背中を丸くして課題をこなす暖の姿がある。時刻は夜8時過ぎ、授業の後いつも以上に大きなカバンをひっさげて撮影部屋にやってきた。  『夏休みなんてそんなお気楽な時間は浪人生にはないよー!夏期講習もあって余計に授業が増えちゃって、、』  「そうなんだ。高校中退の俺には無縁の世界だからね〜どれどれ英語なら教えられるけどっ」  『じゃあここ!5世紀前半に東ローマ帝国のユスティニアヌス帝は古代ローマ法ー…』  「待って待ってッ!英語じゃないじゃん」  『だって大我は大人でしょ?大人なら知ってるんじゃない?』  「あのね暖、大人だって知らないことたくさんあるんだよ。そうゆうのはローマの人に聞くといい!!」  目をしぱしぱさせてカメラのセッティングに戻った大我を見て、ふふっと笑って一旦区切りで課題の手を止めた。 この日は二人での配信を始めてちょうど10回目。初めて生放送で視聴者と繋がろうと遅めの時間から配信をスタートさせる。  事前に予告した効果かチャンネルの画面には開始30分前にも関わらず待機中の数が8千人を表示していた。時間が経つにつれその数字も増えていく。  着替えをしていお決まりの帽子とマスクをつける。撮影時間間近になると自然に手が動くようになって、NATSUと言う人物がすっかり暖の中に定着し緊張する事もなくなっていた。  夜9時、初めての生放送が始まった。  「はーいみんなこんばんは。金曜日の夜だからかな?こんなに来てくれて嬉しいな」  『NATSUです、こんばんは!うん嬉しい、いっぱいお話したいな』  「今日はね、いつも配信を見てくれるみんなからの質問やこんなことやって欲しいって言う事をいっぱい叶えよう思うから、いっぱいメッセージ送ってね」  次々と画面の横でコメントが凄いスピードで流れていく。待機していた8千人に加え、放送がスタートし数分であっという間に1万、2万と数字が面白いように増えていく。  流れるコメントを少しずつ拾い読みながら視聴者との距離を縮めていく二人。一回目の配信とは別人のように、カメラに向かって堂々と話せるようになった暖も配信が楽しくなってきたように見える。  "今着ている服はどこのブランド?"  "最近ハマってる事は?" "家事は二人で分担してるの?" その中でも1番多いコメントはダントツだった。今まで話してなかったがきっと誰もが気になっていた事でこの機会にこの質問が来る事は避けられなかっただろう。  "二人の出会いは?なれそめは?" そのコメントが流れると続いて"聞きたい""知りたい♡"と全員からの一体感に根負けし大我が口を開いた。  『出会いー…はね〜僕が一目惚れして声をかけたんだ。NATSUは俺を知らなかったけど少しずつ口説いて落としたって感じかなー』  それは遠からず間違ってもいない答えだった。あの日いきなり恋人候補だと言って目の前に現れた。それから脳裏にはいつも大我が浮かんで、まんまと口説き落とされた暖は気が付けば何万人に注目されるチャンネルで喋っている。  少しヒヤッとする場面ではあったけれど上手い答えでさらりと交わすさすがの大我。この言葉に次々と更に深い質問コメントが流れ、その後もテンポよく答えていく大我。  「告白の言葉?率直に恋人になって!だったかな?すぐにはオッケーもらえなかったけどね〜出会った場所はねー…内緒!はいはい、じゃ次はNATSU選んで」  『あっ僕?うーんとー…これかな?ポッキーゲームして下さい』 多くのコメントの中から選んだのはまさかのポッキーゲーム。大我は驚いて横を見ると楽しそうにコメントを読んでいる暖は間違って読んだわけでもなさそう。  「はっ!!!?ポッキーゲームって!いやっNATSUそれはちょっと!」  『どうして?僕はやっても大丈夫だけど、、ダメなの??』

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