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#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て⑩
屈託のない顔で質問してくる暖におふざけや冗談などを言っている様子は伺えない。
「……ポッキーゲームって知ってる?」
『それぐらい知ってるよ。あれでしょ1本のポッキーを2人で口で咥えてー…あっっっっ!!』
「やっと気づいた!?」
『それじゃマスク外さないといけない、、!』
「だから言ってるの。というわけでこれはなかった事に!それじゃあ違うやつを選ぶよ、えーっとどれにしようかな」
"やだーポッキーゲーム見たい〜"
"特別に一瞬だけでいいから見せて♡"
大我が変更を促す言葉を言うとすぐさまコメント欄の流れの速さが加速した。今まで隠されていNATSUの素顔を気にならないわけはないだろう。
やっとマスクの下を見ることができるチャンスに視聴者はヒートアップしていく。
「だから無理だよ〜ダメダメっ」
笑いながらやんわりと別の話題に変えようと流れるコメントに目を向ける大我。
"これぐらいしてくれないとつまんない"
"マコトの時はこれくらいすぐに答えてくれてたのに恋人感なくなった気がするー"
多くのコメントの中に紛れるマイナスな言葉も大我にとっては慣れっこでスルー出来るが隣の暖が気になった。
『大丈夫。ポッキーゲームやるよ!みんな見たいって言ってるし!」
「いやっ、顔隠してるのにどうやって?」
『一瞬くらいなら見えても、、ほらっ少し画面から離れていれば大丈夫じゃないかな!?僕はやりたいよっ』
どういうつもりで言ってるのか大我には疑問が残った。視聴者の期待に応えようと我慢してしようとしてるのか、それとも純粋に初めての経験としての好奇心なのか。
「、、 NATSUがそう言うならいいけどー…でもポッキー持ってないよね?」
『ありがとう。それがさぁ持ってるんだ。ポッキーじゃないけど似てる棒状のお菓子なら!ちょっと待って』
暖は画面から外れて鞄の中をガサガサと探してすぐに戻ってきた。そんな暖に対して大我は最近思うことがあった。それは少しずつ暖が大胆になり始めた事。
配信の中で予備校生だと言ったりスイーツが好きでよく一人でカフェに行くとか、察しのいい視聴者には疑われてしまいそうなハラハラする場面も多々あった。
あれだけ人前で目立つことを拒否していた暖が自ら自身を曝 け出すようになって、何か心境の変化でもあったかと大我も心配に思っていた矢先にこの状況。
『はいっ、これで出来るよ』
「……じゃ後ろに下がってマスク外したらすぐに始めるよ。帽子はかぶったままでね」
『へへっ。ちょっと緊張するなぁ』
そして二人はカメラから距離をとって向かい合って座り直す。暖が息を整えてゆっくりマスクを外し手にしたお菓子を咥えると大我は顔を近づけ、反対側を口に含んだ。
" NATSUの素顔公開ー!!"
マスクを外した途端、待ってましたと言わんばかりに視聴者の興奮と叫声が画面から飛び出して聞こえてしまいそう。
大我は"大丈夫?"と目で伝えると小さく頷いた暖。13㎝という距離は恋人にしては当然だが偽の恋人には近い。この状況を画面越しで見ている誰もが疑うことなくキスを望んでいるであろう。
そんな雰囲気を二人とももちろん感じていて、ゆっくり1㎝、、2㎝と短くなっていくお菓子は二人の気持ちも近づけていく。
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