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#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て⑪

 カメラはたった数㎝の距離で見つめ合う二人を映し出している。きっと今日一番の盛り上がりを見せるこの瞬間をちょうど10万人の見ていた。  吸い込まれそうな大我の瞳のマジックから逃れなれない暖はしっかりと開いた目で見つめる。 そして自ずと両手をゆっくり大我の首下に持っていきそっと触れると、意外にも冷静さを保っている心臓はやがて動きを止めたような静けさに変わった。  二人の間を繋ぐお菓子は消えて――  そして暖は初めてのキスの味を知った――  "キスーー♡♡最高!!"  画面に流れるコメントからは、ハートマークが連打され赤とピンクに染まっていた。時々英語や他国の言語もちらほらと目につき、内容は理解できなくても興奮している様子は世界共通で分かる。  唇を離した大我を見ると(うれ)いを帯びた表情していた。首に回した手を下ろして指を唇に当てた暖は今頃になって恥ずかしくなって視線をそらして赤らめた顔を手で隠す。 「NATSUマスクしないと!」  『あっそうだった、マスクマスクー…』  きっと見てる全員が日常茶飯事のことと思っているだろう。まさかファーストキスを何万人もの人達に見られる事になるとは思ってなかった、、その前にこんな形でキスする人生なんて予想もしていない。  「みんなどうだった?満足してもらえたかな?」  大我はカメラの方へ向くといつもの爽やかな笑顔と口調で配信を続ける。切り替えの早さはさすがとしか言いようがない。その横でモジモジしなが視聴者の反応が気になっている暖に大我が声をかけた。  「ほらっ見て!みんなNATSUの素顔カッコいいってさ」  『えっ、、嘘っ!?』  時間にしてわずか10秒ほどだろう。調子に乗ってマスク外したりなんかして、何となく僅かに横顔が見える程度とはいえ素顔を晒してしまった。きっとみんなの期待を裏切る形になってしまったとバッシングを覚悟したのに。  『あ……ありがとう』  「今日この配信を見てた人はラッキーだったね。俺達のキスもNATSUのマスク取った姿も見れてさ。じゃぁまだまだどんどん読んでいくからコメントして!」    そのまま配信は続いていく。みんなの優しいコメントに心良くして二人の話も弾み、夢中になっているうちに時間はあっという間に過ぎていった。そして最終的に12万人まで視聴した初めての生配信は終了した。  『お疲れっ。思いのほか盛り上がったから予定の時間よりずいぶんとオーバーしちゃったけど楽しかったね』  「うん、楽しかった。やっぱり生でみんなの声を聞けるのっていいものだね」  『みんな暖を受けいれてくれて俺も嬉しかったし安心した』  「うん。僕も安心し、、あーっ!!もうこんな時間になってる!どうしよう終電!電車まだあったかなっ!?」  時刻は夜11時半。焦ってスマホで電車の時間を調べ始める暖。帰りの遅い事を心配して母親からの着信やメッセージに更に顔をしかめる。その様子を見ながら思い立ったように大我が言った。  「バイクで送って行こうか?あっそれか今日はここに泊まっていくとか」  『えっ!?泊まる!?そ、それは、、』  そう軽く言う大我だがキスした後にすぐにお泊まりなんて、やっぱりどうしても意識してしまうってすぐに返事せず考え込む暖。  「なんでそんなに考えるの?もうキスした仲じゃんか」  『いやっ、そのー…あれは勢いというか、なんというか。あっそうそう、あれはNATSUの方で僕じゃないっていうか!』  「ふーん、なるほどね!NATSUなら泊まれて暖なら帰っちゃうの?」  『そ、それはー…』  「なんてね。別に強制はしないよ、暖が好きな方を選んで」  大我はキスの尾を引いている様子はない。逆に断ってしまうと意識してるのがバレバレだ。せっかく近づいた距離を離してしまうかもしれない。 いろんな思いが巡るが、結局出た答えはまだ大我といたいかどうかそれだけ。    『と、泊まって、、いこうかな』  

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