47 / 49

#スイーツ男子の欲望はラスクの硬さと砕け散る弱さに似て⑬

 『はぁぁぁぁぁ!お泊まりなんてどうしたらいいんだよぉぉぉぉ!ハッ!着替えない!下着どうしよう!?』  大我の姿が見えなくなった瞬間、張りつめていた胸の内が大声で出てしまう暖。勢い余って"泊まる"なんて言ったものの問題は山ほどある。  ぱっと目に入ったクローゼット。きっとこの中には普段大我が来ているお洒落な洋服などが並んでいるはず。しかし下着を共有するなんて本物の恋人でもしないことだろう。仕方ない、少し気持ち悪いけど着替えは我慢しよう。  下着を頭に思い浮かべているとどうにもアッチの方に思考がいってしまう。もしそういうことになったら、、物事には順序と言うものがあってキスを経験したもの同士が次に進むのは、、  『ないない!いやでも待って、、最初大我は一緒のベッドで寝ようとしてたっ!も、も、もしかしてそういうつもりだったとか…』  頭を抱えて座り込んだ。いや大我は誰とでもそんなことするような人じゃない。ましてや相手が僕なんかじゃ絶対嫌に決まってる、心配ご無用だ。  バスルームにまで届きそうな大きな独り言と葛藤が止まらない。でも大丈夫、シャワー音はまだ聞こえているから大我には届いていないはず。  『ん?何だろ?』  座り込んだ目線から見えたシルバーのラックから落ちたように床に転がる白い紙の封筒。よく病院で処方される薬を入れる物だ。 近づいて拾い上げると大我の名前と病院名が書かれていた。  『あれ、この病院って陽が入院してる所だ』  あの辺りじゃ一番大きな病院だから行く事があってもおかしくは無いけど、病院からの薬が置いてあるとどこか悪いのかなと心配になる。 そしてあの時、病院で見かけた大我に似た人は本人だったかもしれないと記憶を戻す。 すると突然鳴り出したスマホの着信音。  『わっ!ビックリした!誰こんな時間に……もしもし?あ、っ、明希どうしたの!!?』  「何でそんなに慌てとるんや?」  『べっ、べ、別に慌ててないしっ!普通だよ、うんそう!いつもこんな感じじゃん」   手にした白い封筒をラックの上に戻して一呼吸して落ち着かせて電話に集中する。  「なんか変やな。あー遅い時間に悪いな、電話したんは俺の数学の教科書持ってへんか荷物確認してほしいねん」  『荷物?えっ教科書なくしたの?』  「帰って気づいたんやけど、カバンに入ってなかってん」  『そうなんだ。確認するからちょっと待って』  通話状態のままスマホを置いてカバンの中を大きく開いて1冊ずつ順番にテーブルに出していく。そして最後に残った2冊にはどちらにも"数学"と書かれていて、綺麗な状態の1冊と使い込まれているもう1冊は間違いなく明希のだとすぐにわかった。  『あっ、あった』  「ほんまか?やっぱり紛れとったか」  『ごめんっ、多分気づかずに自分の教科書と一緒に入れちゃったんだ』  「あったならええんや。名前書いてへんけどどっちかわかるか?」  そう言われて比べてみると同じ時期に使い始めたのに使用感が全く違う。中を開くと一目瞭然、どのページにもペンで書き込んでしっかり授業聞いている形跡ですぐわかった。  『あ、うん。情けないくらいすぐわかったよ……間違いないと思う』  「何やそれ?どういう事やねん。ほな悪いけど明日頼むわ。あーそれとー…」    電話をする後ろ姿に迫る人影。暖は明希の話を聞くのに夢中で気配には気づいていない。  「暖っ!シャワー出たから入れば?」  『うわっっっ!!!』  振り向くと上半身裸でタオルを首にかけた大我が立っていた。突然後ろから現れた驚きと、まだシャワーの熱と水滴が残る肌を隠すことなく平気な顔して近づいてくる。  「ごめん。電話中だった?」  『あっうん。そ、それより何で裸っ!!?』  「何でって単純に暑いから?」  「おいっ暖!!大丈夫か?誰かおるんか?」  『あ、明希っっ!ごめん切る!じゃ明日!!』  「ちょっ待っ、、」  通話中だと言うことが頭からすっぽり抜けて、まだ何か話し足りなそうな明希の声がするのも無視して電話を強制的に切った。    
ロード中
ロード中

ともだちにシェアしよう!