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#スイーツ男子の葛藤はミルフィーユの重なる想いに挟まれて④
説明とは言ったものの複雑で何から言えばわからないけど仲のいい友達をずっと騙しているのも心苦しい。いっそのこと言ってスッキリした方が良かったのかもしれない。
『いつみ!怒らないで聞いて欲しー…』
「あー!やっぱりーー!深夜まで、いや早朝まで勉強してたでしょ!!」
『……へっ?勉強、、?』
「目の下クマ出来てるじゃん〜もしかしてテストあるの知ってたんじゃない!?」
『……ク、、マ?』
「そう!私や明希には勉強してないとか言っといて〜抜け駆けは許さないからねっ。今日遅刻しそうになったのもその為ね?」
いつみから発せられた言葉に暖はガチガチに張った肩の力が一瞬にして緩んだ。思わぬ方向に話がいったが最悪の事態を回避できた。
『あーえっと〜そう勉強ねっ!そうそう、ちょっとだけやったかな〜!でもテストあるのはほんとに知らなかったからっ!無実です!』
「うーん、まあ正直に言ったから許してあげる。その代わりカラオケ代お願いしまーす」
それからは配信の話が出る事はなくしっかり歌ってしっかり食べて、何とも学生らしい放課後を過ごして自宅に帰った。
『ただいま。っていないか』
陽が入院して以降、夜に帰宅しても家に誰もいない事が増えていた。父親は元々帰りはいつも終電近いく、お節介で心配性の母親はパートから帰って夜は病院に付きっきりだ。
とは言え暖も夏期講習に配信とそれなりに忙しくしていて家族とゆっくり話す時間は最近はほとんどなかった。
『まさかいつみが視聴者だったなんて、、気をつけないと。安易に顔出しなんてやっぱりしない方がいいよね、、』
配信後もマスクを外したシーンを切り取った画像がSNSで流れているのを見かける。油断すればすぐに拡散されて特定までされかねない、これからは気をつけないと。
ベッドに寝転んで1泊しただけなのに部屋の天井が久しぶりに思えて眺めながら昨夜の出来事を思い返したりしていた。
ガッシャーン!!と大きな音が聞こえ暖は身体を起こした。外の駐車場辺りから聞こえたその音は何かが倒れるような音。家族が乗っていてそこに車はないが兄弟の自転車が置いてある。
家の前は人通りも少ない暗い細い道路で街頭の灯りが、2階の窓からぼんやり見えるだけで誰もいない。
『あー!もしかして!?』
そう言って急いで階段を降りて玄関に行くと
少しだけ空いた玄関のドアを見て"しまった"と顔を歪めた。うっかり鍵を開けたままにしたせいで愛猫がドアを開けて外へ出てしまった予感。
大体帰宅すると家族の誰かしらいて自分から鍵を開けて閉めることも少ない。家族がいない事も多い最近でも時々いつもの癖で鍵を閉める事を忘れてしまう。
急いで外へ出て行き玄関横の車一台分と少しのスペースがある駐車場は車は無く、思った通り並べて置いていた自転車が2台倒れていた。
風もない屋根の下に置いた自転車が倒れてる理由を体勢を低くして覗き込むように目を動かして探す。
『おーい!どこ〜?出てきてよー!』
手で物を退けながら愛猫の姿を探す。遠くまで行くような事は無い、きっと近くにいるだろうけどけど真っ暗な外で姿も見えない声も聞こえないと不安になる。
駐車場の後ろに回って家と隣の家との境目のブロック壁に人が一人通れる程の隙間がある。ここかと覗くと愛猫のふわふわした背中の毛並みが目に入った。
『あ〜いたいた!よかった〜もうダメじゃん、夜に外に出たら!ん?、、何か食べてんの?』
近づいていくと愛猫は夢中に何かを食べている口を休めず目線だけ暖に向けた。愛猫の手元にあるのは細いお菓子の様な物が、サイズもバラバラに適当に折って散らばっていた。
『ちょっとストップ。変なもの食べてないよね、、?』
散らばったものを手にしてよく見てみる。クリーム色と茶色が混じっている棒状のお菓子で茶色の部分が所々、暑さで溶け出していた。それを見て分からない訳はない。
『これってー…ポッキー、、?あっ!ダメっっっ!!!食べちゃダメっっ!!』
すぐさま散らばったお菓子を集めると不満げににゃーにゃーと鳴く愛猫を抱きかかえて、急いで家の中に戻り鍵をしっかり閉めた。
どこかで拾ったのかもしれないけどこのタイミングでポッキーが出てくると意味ありげで変に疑った考えになって不安が押し寄せる。
ポッキーが入っていたシルバーの袋も落ちていて綺麗に開いた開け口を見ると愛猫が開けたとは考えにくい。
誰か配信を知っている人が家まで、、?
『これどうしたの?どっかから取ってきた?それともー…誰かが家来て置いて行った?ねぇ教えてよ』
クリクリとした目でただ見てくる愛猫に問いかけてみたけど答えはない。いや違う、これは偶然たまたまで深い意味はないし何の問題も起きてない!
そう言い聞かせキッチンのゴミ箱にポッキーを捨てた。
それからすぐに母親も帰宅してそれ以上の事は何も起きずチョコレートを食べてしまった愛猫の体調も気がかりだったが、問題なくそれ以上何かが起きることもなかった。
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