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#スイーツ男子の葛藤はミルフィーユの重なる想いに挟まれて⑥

 そんな母親と明希の会話がされているなど全く知るよしもない暖は珍しい場所にいた。  『えっ!?今日の撮影場所ここ!?』  「そっ!ここがどこかわかる?」  『んっと……サーキット場ー…かな?』  少し田舎までバイクを走らせて着いた場所は暖にとって全く馴染みのない世界の入り口。バイクの後部座席からメインゲートにデカデカと書かれている英語の文字は暖でも読めたようだ。  「ほら言ってたじゃん。俺の好きな世界を体験してみたいって」  『あーそうだけど、、サーキット場って早い車やバイクが凄い音を出して走ってるんだよね、、何か怖いな、、』  「あのね、バイクの後ろに乗ってここまで来といて何言ってんの?暖だって知らない世界を知る事は楽しいって分かってきた頃じゃない?」  確かにその言葉は一理ある。いわば配信者の世界なんて全く無縁の世界で出来るわけない!と少しの興味本位と償いのつもりで飛び込んで二ヶ月強。それが今や画面越しの自分を見て画面の向こうの知らない誰かに認知され、大我の恋人だと認めてもらえるようになったのかと思うまでになった。  顔も名前も隠して違う別人を装っていたとしても誰かに関心を向けられたい欲は人間なら誰にでもある。SNSが支配する現代はまさにそれを象徴している。  「それに今日はレースが行われているわけでもないから静かだよ。知り合いにお願いしてさ、撮影で使わせてもらえる様にしてもらった!」  『知り合い??』  「今もう来てるから中入ったら紹介するよ。さっ行こう」  サーキット場に足を踏み入れと暖の想像はるかに超えた広い敷地に先が見えないくらいのコンクリートの曲線の道が続いている。 暖からすれば騒音のように思える車やバイクの音は全く聞こえず、路面から顔上げると真緑の山々と青い空に癒されるくらいの大自然。  『うう〜ん。空気が美味しい〜』  「だってだいぶ田舎まで来たからね。たまには都心から離れてこうゆう所来るのもいいと思って、暖の勉強ばかりで疲れた頭を少しは癒せるかなって」  サーキットを作るには広大な土地が必要で騒音問題から離れた山に作られることが多く都心から来るとなるとちょっとした小旅行だ。  『……そんなこと考えてくれてたの?』  「まぁね。俺は勉強は教えてあげられないけど、違う方法で受験を応援したいから。あーそれもだし久しぶりにガッツリ走りたかったのもあるかな」  『大我ありがとう』  ハニ噛んだ暖の頭をポンッポンと2回優しく叩くと顔を見合わせてニコッと微笑み合う二人。  「ハイハイっ!そこまで〜!そういうのは二人きりの時にやってもらっていいかな〜!?」  「あっ!叔父さん、今日はよろしくね」  『叔父ー…さん?』  二人の背後からうるさく登場したのは修一。先にサーキットに来て大我の到着を待っていた。目の前で二人の世界になり始めたのを見ると、父親の心境に似た思いからか堪らず出てきた。  「そう。うちの母親のお兄さんでバイク屋のオーナーやってる修一さん」  「どうも水島修一、バイクと大我の事なら何でも知ってるから俺に何でも聞いて!」  『あっ、、はい。よろしくお願いします。あっ!えっと、、僕はー…』  「スイーツ男子のHALくんでしょ!?」  『えっ?何で……知ってるんですか』  「だって君のSNSから住んでる場所見つけたの俺だからっ!」

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