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#スイーツ男子の葛藤はミルフィーユの重なる想いに挟まれて⑨
"天は二物を与えず"と言う言葉がある。天は一人の人間に多くの長所を与えることはしない。人は必ず短所もあって完璧な人間などいないという意味だ。
修一の言葉を聞いたとき暖は何故かこの言葉が頭に浮かんだ。大我は太陽の様にキラキラしていて非の打ちどころのない人間。そんな大我にまさかそんな知らない秘密があったなんて。
『病気ー…って何なんですか?完治はないって、、かなり悪い病気なんですか!?』
「あぁけど安心して!普通に生活してれば死ぬ病気じゃからさっ」
病気と聞いて重く受け取った暖に対して軽く返事をした修一。
『だとしても大我が病気なんてー…』
「見た目じゃ全然気付かないだろ?シトリン欠損症 って名前の病気だ。まっそう聞いても分からないと思うけど、簡単に言えば糖分を制限される病気といえば早いかな」
『糖分??』
「そう!全く食べられない事はないけど量を超えると、暖くんの大好きなスイーツは大我に身体にとっては毒になるってわけだ!」
『毒ー…あ"ああああぁぁぁ!!』
「なっ、何だよっ!!?」
『ポッキー!!大我ポッキー食べたんです!僕がポッキーゲームやろうって言ったんです!どうしよう!死んじゃうかも』
「……あのさぁ、、ポッキー本食べて死ぬ病気ならもうとっくに死んでるって。暖くんは天然なのかな、、??」
暖にはそんな言葉も耳に入っていない。部屋を歩きながら頭を抱えている暖に修一は"面白い奴だな"とフッと笑って走るバイクを視線を変えた。
「おっ、ラスト2周だ。ここからだぞ」
9周目の表示が点いてバイク同士の間隔も離れ、前を走る3台が接戦が繰り広げている。3番手に着けている大我は前の2台に食らいつく様に今にも身体が地面につきそうな斜めスレスレの体制でコーナーを曲がる。
熱されたアスファルトは50度近くに達してレース終盤の熱気は高まってサーキットにいる全員が見守る。
『大我……頑張れ』
小さな声で大我の姿に向けて暖が呟いた。病気の事を知って少し気が動転しているが、目の前の大我は健康そのものでそんな風には全く見えずにまだどこか信じられない。
「よしっ下に降りよう。ゴールを間近で見たいだろ?」
『はい』
「あっそれとさっきの話だけど俺から聞いたことは大我には内緒にな」
『も、もちろん言いません!』
「そのうち本人から話してくるだろうけど、、もしそれがなかったらそこまでの関係って事だな」
結局は偽の期限付きの関係。いつかは離れてまた普通の受験生活に戻る、それを分かった上で始めた事。
『僕らは本当の恋人じゃないですから、、大我が病気の事言わなくても当たり前です』
「だけど一つ言っておくと、大我がここに誰かを連れてきたのは初めてだよ。夢だったバイクレーサーの道を誰か見せようとするのはそれだけ大事な人の証拠だよ」
そう言って部屋を出て行く修一の後を追いかける暖の複雑な思いはエンジン音と絡まってラスト一周をやるせない気持ちで見届ける。
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