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#スイーツ男子の試練は冷たく口溶け易いババロアのように試される⑥
通された個室にはすでに撮影機器は揃っていてスイーツさえ揃えば、すぐにでも撮影できる状態だった。
「それにしても人気者の2人に来てもらえるなんて有り難いな。ホントいい宣伝になるよ!今は下手にCMや雑誌出るよりも、こういうインフルエンサーの動画1本出る方が宣伝効果がいいんだから。これも時代だよね」
「こちらこそ吉岡さんがお店オープンするって聞いたから、すぐにでも来ようと思ってました。あっこれどうぞ!小さいですけど」
店に入る前から気になっていた大我の持つ紙袋の中の正体は、開店祝いの花だった。白薔薇と青薔薇の2色だけのブーケは、シンプルさに上品や可憐さが纏っていかにも大我らしい選択だ。
「やっぱりセンスがいいね。白薔薇と青薔薇か。どうしてこの花を?」
「花言葉は夢が叶う、相思相愛、生涯を誓う。吉岡さんの夢のカフェオープンと店名Chériの意味のフランス語"恋人"にかけてみました」
「やっぱ大我くんはホストNo.1やってただけあって計らいが粋だね」
「そんなのもう昔の話ですよ」
花を受け取って大我としばし深い話が始まりその内容は経営関係の難しい話、配信者だっていわば個人経営者みたいなもんだ。暖には全く入る隙もない、椅子に座ってただ2人の会話をじっと見ているだけの沈黙タイム。
そんな中で視線を別に向けると暖の興味を引くものが個室の窓から飛び込んでくる。この部屋は客席フロアは見えないが、お店のキッチンはよく見える位置にある。制服の白いコックコートに帽子を身に付けた、パティシエ達が今まさにこの後、目の前のテーブルに並ぶであろうスイーツを作っている最中だ。
"いいなあ"と小さく無意識に口にしたワードは、スイーツへの食欲より先にそれを作るパティシエへの羨望 だった。
それまでは何よりスイーツばかりを見ていたのに今は先に作り手の方へ関心が向くのはどうしてか。
「あーいけない!NATSUくんごめん、勝手にこっちで盛り上がっちゃってたね」
『あっいえ、大丈夫です』
「何見てたの?あーキッチン?気になる?あの子達は、僕が講師をしてる専門学校の卒業生の子達だよ」
『そうなんですか?まだ若い方ですね』
20代前半の若い男女が様々な種類を手際よく作りあげていく。さほど暖と歳が変わらない若いパティシエがまたグッと興味を引く。
「吉岡さんのお弟子さんなら腕はいいはず。今日はそれ食べれるんだって、NATSUよかったね」
『うん、楽しみだな』
「そう言えば今日は撮影するNATSUくんの分だけの用意良いと聞いてるけど大我くんのはいいの?」
この発言をすると言う事はきっと吉岡は大我の病気のことを知らない。考えれば知り合いのカフェでの撮影にはこんな事もあるのも予測出来たはずだけど、撮影依頼があったとは言えそれも承知で連れてきてくれたんだ。
「どうせなら大我くんにも食べて欲しいな」
『いやーっあの!!きょ、今日は僕のご褒美動画なので僕1人のみで大丈夫です!ほらっ大我さ、昨日から胃の調子があまり良くないって言ってたじゃん!だ、だから今は食べない方がいいんじゃないかなぁ?』
咄嗟に出たよくあるパターンの嘘はこれでも絞り出してうまく言えた方だ。大我は突然そんなことを言った暖を少し不思議に思ったが、まさか病気を知ってたが為に庇った言葉とは思わない。
「そっかそれは残念。大丈夫?それじゃまたの機会に食べてよ。そろそろ出来る頃かな、キッチンの様子見てくるから待ってて」
"はい"と暖と大我が声を重ねると部屋を出ていく吉岡。2人きりになり座っている暖の横にぱすっと軽く座って顔を覗き込んだ。
「暖何あれ、胃の調子が悪いって?ちなみに俺は健康体そのものだけど!?」
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