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#スイーツ男子の試練は冷たく口溶け易いババロアのように試される⑩
週が明けて明希は学校を休んだ。暖といつみのグループメッセージに"体調悪くて2、3日休む"とだけ送ると2人から心配のメッセージが返ってきたが返信はしなかった。
実際は身体はいたって健康で病んでいるのはメンタルの方。図書館で暖と大我の繋がりを知ってしまってから勉強に手がつかない。学校で暖に会ってもいつもの調子でいられる自信はない。
大我と付き合い恋人として配信をするなんて暖もどうかしている。SNS辞める原因の相手のとなんかとどうして。明希の知っている暖はもういなくて不信感だけが募っていく。
あの日以降勉強はおろか、何かをする気力もなく家に篭っていた。ただ家にいたら居たらであれこれ考え気が滅入ってしまう。3日ぶりに外に出たのは学校ではなくバイト先のファーストフード店だ。
23時、店外にある看板の電気が消えシャッターを下ろし営業を終えた店内はスタッフ数名で閉店作業の最中。
「乾くん、今日は本当にありがとね。急に病欠でシフトの空きが出ちゃって、まさか出勤してくれると思わなかったけど、学校大丈夫だったの?」
「あー…今日は行かんでもいい日やったんで」
「そう。助かったわ」
「捨てるゴミこの3つだけでええですか?ほな裏持っていきます」
ビッシリとゴミが詰まった大きな袋を持ち上げて、裏出口からゴミ置き場まで歩く。誰もいない静かな店裏は薄暗く、唯一付いている小さなライトで何とか捨て場の位置を把握できる。
昼間に捨てたゴミ袋で既にいっぱいになったその上に無理矢理乗せると、カラスよけの網を被せながら自然と溜め息が出た。
明日はさすがに学校に行かないと授業も遅れをとってマズい。気持ちを切り替えて暖にはこのまま知らぬ振りで見過ごすか、知っている事を伝え本人の口から真実を訊くか。
鬱々としたまま大学入試試験を迎えるのだけはどうしても避けたい。
「君、乾明希くん?」
ぬっと現れた姿を視界が捉えて声がする方へ顔を向けた明希。
「はいー…そうですけど誰ですか?」
「待ちくたびれたよ。にしても学校休んでまで夜遅くまでバイトとは精が出る事で」
学校の欠席を知っていると言う事は同じクラスの生徒か。とも考えたが、閉店まで出てくるのを外でしばらく待機していたかの様な口振りに違うと確信した。学校の知り合いなら営業中でも店内に入ってきて声をかけてきたはず。
薄暗がりでぼんやり見えた顔に馴染みはないし、このバイト先を知ってるのも暖といつみだけのはず。
「せやから誰やって聞いてんねんけど」
「初めまして、って一応は一度会ってるんだけどさ。あー、名前を言うより大我の"元彼氏"って言った方が分かるかと。動画見てるっしょ?」
今一番聞きたくないその名前。突然の招かざる客は今の明希にすれば火に油を注ぐ様な存在だ。
「何の用で来たんか知らんけど、その大我ってやつとは関わりないで」
「君は関わりなくてもお友達はそうじゃないっしょ?仲良しの滝川暖、一緒に図書館で勉強する仲だからそうだと思ったけど。あれ違う?」
「アンタ、、あん時の!?」
図書館で暖に近付いていた黒い服の男がマコトだとこの時に分かった。言われてみれば背丈や体型も一致している。それを訊くとさらに不審な動きをするマコトに警戒心が働く。
「アンタ何がしたいねん!暖に接触しようとしたり、俺のバイト先まで来たり警察呼んでもええねんで」
「せっかちだな、さすが関西人。普通に君と話がしたくて来ただけなのに通報される訳?」
「はっ?アンタと何を話すことがあんねん」
「おそらくだけど俺も君もあの二人対しては同じ事を考えてると思うから」
「どうゆう意味や」
「あの二人が付き合って恋人として配信する事が気に食わない。出来る事なら引き離したい」
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