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#スイーツ男子の試練は冷たく口溶け易いババロアのように試される⑯
「だけど意外ですね。大我の恋愛対象が同性だったなんて。この店に居た時はそんな素振りもなかく彼氏がいる話も聞いたことありませんでしたね。それに売れるホストは絶対的に色恋営業が上手いもので大我もそうでした」
『色恋……営業?』
「つまり相手を好きなフリをして気があると匂わせる。そうすると女性も愛されると思い担当ホストに入れ込んで大金も惜しまなくなるんですよ」
『つまり、、どうゆう?』
「女好きじゃないとできない仕事ということです。もちろん私も女性が大好きですから」
追加のジュースと詩音のお酒が運ばれてくる。テーブルに置かれたグラスに映る暖の目は泳いで分かりやすく動揺している。
詩音の顔を覗くように見ると"本当は付き合ってないんでしょ?"と次にもそんな台詞が出てきそう。
『ちょっと、あの、、トイレ!トイレに行って来てもいいですか?』
「ええどうぞ。スタッフが案内しますよ」
『、、すいません』
立ち上がってスタッフに着いて行く暖はチラッと後ろを振り返る。詩音を見ると足を組んでこちらを笑顔で見ていて慌てて前を向いた。
「トイレはこちらです」
『あっ、ありがとうございます。ひ、一人で戻れるので待たなくて大丈夫です、、』
スタッフが去ってやっと一人の空間になると自然に大きく息が溢れた。トイレの中に入るとフロアの延長の様な良い香りと埃ひとつ見えない程に清掃された徹底ぶり。
もちろんトイレに来たのはあの場を離れる為の嘘。とりあえず誰もいないのを確認し個室に入って便座の蓋の上にちょこんと座る。
『うー…やっぱあの人只者じゃないよ、、偽彼氏って絶対バレてるっ!』
詩音には何を言っても全て見透かされているような気がしてこのまま話し続けてると誘導的にありのままを何でも話してしまいそうでよく無い。
さすが大我とNo.1を争っていただけある人だと変に感心までしてしまった。
なかなか個室から出られず悩んでいる内に10分程経っていた。いい加減戻らないとと決心しドアを開け目の前の洗面台で一応、用を足したていで手を洗っていると誰かがスッと中に入ってきて暖の真後ろを通り過ぎた。
「、、、ん?」
通り過ぎた人影がバックして背中から洗面台の鏡にフレームインすると顔をあげた暖と鏡越しに目があった。前髪を触りながら光沢のある赤いシャツのホストが近づき暖の顔をじっと見つめる。
「あれ?なんか見覚えのある顔ー…どこかで会った??」
『いやっあの。この店は初めて来たので』
よくあるナンパ文句もこういうホストクラブ内でも使うのかな?なんて事を考えながら蛇口から流れる水を止めてペーパータオルを取ろうとするとスルっと手が伸びて遮られた。
『あっ、ちょっと何を、、ッ』
「思い出した!焼肉店にいたでしょ?この店の近くのとこの!友達といたじゃん」
その言葉を聞いて記憶を手繰り寄せるとすぐに思い出し顔を再度確認した。あの時に相当酔っていた泥酔状態のホストに絡まれた、まさにそれが目の前にいるホストだ。
それにあわや手も出しそうな勢いで明希と口論になって怖くて顔も覚えていないが、トレードマークなのかその時と同じ赤いシャツを覚えていた。
『あー!あの時の酔っ払い!!、、の方……』
「やっぱりそうか。俺さ人の顔は忘れないんだ、あんなに酔ってたのに覚えてんの凄くない?」
『まあ、、そうですね』
「ところでここで何してんの?初めて来たって誰かの知り合い?もしかしてこの間の女の子と一緒?」
怒涛の質問ラッシュが始まってまたトイレから動けなくなってしまった。一難去ってまた一難。
明希やいつみの話題まで出てくるとますますここから立ち去りたくなる。
『僕、、もう帰らないといけないので!すいませんっ!!』
「あっ!ねえちょっと何で逃げるー…」
走って入り口に向かった暖がバフっと威勢よく跳ね返る勢いで何かにぶつかった。暖の身体はそのまま誰かの腕に包まれて聞き慣れた声が頭上から聞こえた。
「俺の彼氏を虐めないでもらえる?」
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