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#スイーツ男子の試練は冷たく口溶け易いババロアのように試される⑰

 「誰?彼氏って、、連れ?男だけど?」  大我を指差して不思議な顔をした。最近入店したばかりのホストには大我の顔は分からないだろう。しかも確かに暖の体格や見た目は女子に見えても仕方ないが、男子トイレにいるのは決定的に男だと言える。  『えっ!?大我ッ、何でここにいるの!!?』  「それはこっちのセリフ。俺に隠れてこっそり他の男と浮気?」  『ち、ッ違うよ!!!』  「じゃ何で暖がホストクラブなんかに?しかもこのお店どこか知ってんの?」  『それは色々とー…話せば長くなる、、だけどこの店だから来たんだよ!他のお店なんかには興味ないしッ』    こっそり吉岡の製菓学校に見に行った事は黙っておきたい。気持ちは揺らいでいてまだ踏ん切りがつかずにいる。自分だけの問題ではなく、予備校のお金を出してくれた家族の事や一緒に大学合格の目標で勉強をしてきた明希やいつみに何と説明すればいいのか。  ただのスイーツ好きなだけの自分にパティシエが務まるのか、、夢みたいなこと言ってこの浪人生活を無駄にしまってもいいのか。  「ん?どした?」  『あっううん!何でもないっ!あっ、たまたま行きたいカフェがこの近くにあってそれでー…』  「おーーいっ!アンタら!こっち無視して二人だけの世界に浸るなっ!」  「あーごめんごめん。忘れてた」  本人達からすればよくあるカップルのちょっとした小競り合いなのだろう。ただ側から見ればイチャイチャを楽しんで二人だけの世界に浸っている様にしか見えない。  「ごめんじゃねーっての!」  「それよりさ、お客様がいる時はキャストのトイレの使用は禁止のハズでは?しかも初めてのお客様に敬語は使わない上に失礼な態度。楽に大金が稼げてホストなんかチョロいと思ってたけど、実際はそんな甘い世界ではないと知った、まだ指名ゼロの入店1ヵ月目の新人ってとこ?」  「違げーよ!1ヶ月じゃねぇ3ヶ月だ!指名も1人は取ってるしっ」  『…… 3ヶ月でお客さん1人って、、なかなか厳しい世界なんですねホストクラブって」  同情するように言った暖にクスクスと笑う大我。悪気は無く謙虚に言ったつもりだか、売れないホストだとレッテルを貼ったようなものだ。  「っうるせーよ!あ〜もしやアンタら二人、他店のホストでスパイだろ?それか冷やかしか!?どこの店か言ってみろよっ!」  突っかかる大声を涼しい顔して見ている大我。怖がって大我の服を掴んで身体を縮こませる暖の後ろから、さっきまでいたテーブルでのあの香りがふわりと香った。    「おい、優生何やってる?こんなとこで油売ってないで9番テーブルのヘルプだ」  「だって代表!こいつらがー…」  「いいから行け」  「……はい」  詩音の指示に膨れっ面で3人の横を通りフロアに戻る優生。売り上げのほとんどない一番下っ端はとにかく売れっ子ホストの席に付き、酒を作り場を盛り上げるなどのサポートをする"ヘルプ"と言う仕事がある。指名客がいなくてもやる事は多くそんな経験を経て上にのし上がっていくもの。    「悪かったですね、大丈夫ですか?」  『あのー…もしかして、、大我を呼んだのって詩音さん??』  「そうですよ。一人で帰るのは危ないと思って彼に連絡を。ただ思った以上に早い到着でしたけどね」  そう言って目線を大我に向けた詩音。連絡から一時間もしないうちにこの店に着き、すぐに暖の居場所をスタッフに聞き出し連れ戻しにきた。  「おせっかいなのは相変わらずなことで」  「大我、時間あるか?」  「何で?」  「少し二人で話がしたい。まだ聞いて無かったしな、突然店を辞めた理由」  「、、そんなの今更聞いてどうすんの?」   「そうだな。理由によっては、店に連れ戻すかな」  大我と暖はまさかの言葉に目を大きく見開いて詩音を見た。飛び出したそのワードは果たして本気なのかジョークのつもりか、イマイチ掴みどころのない詩音からはなかなか読み取れない。  「悪いけど無理。こんな危険な場所に大事な彼氏を1人しておけないんでね。それにそんなつまらない冗談に付き合ってらんないし」  「そうか残念だな。ケーキや焼き菓子を用意したんだけど無駄になってしまったか」  『はいっ!!?詩音さん、今何て!?』

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