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#スイーツ男子の試練は冷たく口溶け易いババロアのように試される⑱
「用意したのはSucre Poupée と言う洋菓子カフェから購入しました」
『えっ!!Sucre Poupée!!?』
スイーツ好きにその店名を知らない者はいない。イタリアの名店カフェが初めて日本にオープンさせたお店で、高い値段もさることながらこだわり抜いたスイーツの数々にコアなスイーツファンは必ず行ってみたいお店の1つだ。
「ご存知ですか?さすがですね」
『だッ、だけどSucre Poupéeってテイクアウトはやっていないはずです。しかも店舗は小さく営業時間も短い、予約は半年以上待ちの状態』
「その通りです」
「じゃ〜嘘だね。そうやって暖を使って俺を引き止める作戦なんだろうけど残念でした。暖帰ろっ!」
ポンポンと詩音の肩を2回叩いて暖の腕を引きトイレを出ていく大我。フロアに出ると半分ほど埋まっていた客席はいつの間にか満席近くになり男女の艶かしい世界が更に広がっていた。
それを見た大我は足を止めて何も言わず様子を伺う様にフロア見つめている。目線の先には成長した星夜の姿、まだ不慣れにヘルプに付く優生。
常に変化し続ける夜の世界、この店も例外ではなく時間と共に店も同じ様に変わっていった。
『ん??大我どうしたの?』
「あっ、いや別に何も。行こ」
歩みを進めるとトレーに片手に奥から出てきた黒服スタッフが目が二人の前を通り過ぎると、ピンッとスイーツレーダーが働いた暖の足がピタリと止まり目線はトレーの上にロックオンされた。
大我は"ん?"と暖を見るとお決まりの物欲しそうな眼差しを感じて、これはマズいぞ!と大我は暖の肩を掴んで出口に向かおうとするが時すでに遅し。
『待ってっっ!!あれはー…もしや』
「鋭いですね。これで嘘ではないとわかってもらえましたか?」
ゆっくりした足取りでコツッコツ靴を鳴らして暖の真後ろに立った詩音が少し得意げに、フロアに響く大音量の音楽の中でも聴こえるくらい近く耳元で言った。
トレーに乗っているのは紛れもなく数多くテレビや雑誌で取り上げら、テレビや紙面だけで見た事のあるSucre Poupéeのスイーツいや宝石達だ。
「出たばかりの新作ケーキをいくつか用意を」
『わっ!本当に!?♡』
「だけど残念ですね。あーそれ!お客様お帰りだって言うからやっぱり戻してー…』
『待ってっっ!!大我!僕は大丈夫だから、詩音さんとお話ししてきて』
「はっ!!?」
『大我もこの店は辞めてから来るのは初めてなんでしょ?詩音さんも話したそうだし、、いやぁ〜この店なかなかいい店だからもっと居たいな〜あっ!そうそう!星夜さんとまだいっぱい話したいから終わる少し待ってようかな〜』
「暖、、嘘が下手すぎ」
『う、嘘じゃないよっ!ほんとにそう思ってんだから』
そう話す暖はわかりやすいほどスイーツしか見えていない顔していて、大我はもうこうなってしまったら暖は何を言っても引かないだろうなと小さく息をこぼして詩音を見た。
「、、長くは話さないから」
「少しで充分。おい、VIPルーム開けてくれ。伝説のNo.1の帰還だ」
出入り口付近で何やら起こっている出来事にフロアで接客中のホスト達も何事かとチラチラと意識を向ける。
中には長年の常連客に"大我じゃない?"と遠目からでも気が付く者もいた。それほどこのZeal Nineと言う店では"ホスト大我"の存在意義は大きかった。
暖は黒服スタッフに付いて座っていた元の席へ。大我はホスト時代に数え切れないほど登った階段を上がり、フロア全体が見渡せる上の位置にガラスで仕切られたVIP席へそれぞれの席についた。
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